「ウクライナから多くのスタートアップを輩出したい。2025年までにGDPに占めるテクノロジー分野の割合を4%から10%に、金額ベースでは165億ドルまで拡大し、ウクライナを欧州最大のテクノロジーハブにしたい」
ロシアが侵攻を開始する前まで、ウクライナにおけるスタートアップのエコシステムは、大統領のビジョンを実現しつつあった。投資家によると、ウクライナでは過去数年でスタートアップ市場が飛躍的に成長しており、コンピュータサイエンスとテクノロジーを強みとし、特にディープテックやAIの分野のスタートアップが集積していた。
政府もこうした動きを後押しし、2019年には「ウクライナ・スタートアップ・ファンド」を立ち上げ、アーリーステージの企業に助成金を提供していた。投資額は年々増加しており、ウクライナ国内には4000社以上のスタートアップが存在するとされる。
しかし、ロシア軍がウクライナの各都市を包囲する今、市場は停止しており、同国に投資する投資家は、ウクライナの復興には海外投資家による支援が必要だと指摘する。
デロイトの最新のデータによると、2021年1~11月には、ウクライナのスタートアップに対して16億8000万ドル(約2000億円)以上が投資されていた。「認知度がそれほど高くない市場としては、非常に大きな規模だ」と同国でスタートアップエコシステムを支援するプラットフォーム「Emerging Europe」の創業者であるAndrew Wrobelは話す。
一方、米調査会社ピッチブックのデータは、ウクライナにおける2021年全体のスタートアップ投資額を940万ドルとしており、実体とは大きく乖離している。
この乖離の原因の1つは、ウクライナ人が設立したスタートアップの多くが、法律や税務面の負担を避けるためにエストニアや英国で登記されていることにある。このため、実質的にはウクライナのスタートアップであっても、それを把握するのが困難になっているのだ。