ディープテックやAIに強み
例えば、英文ライティング支援を手掛けるデカコーン企業「Grammarly」(評価額130億ドル)や、昨年10月に上場したDevOpsプラットフォームの「GitLab」(時価総額64億ドル)がウクライナ発の企業であることは、数週間前までテック業界でもあまり知られていなかった。スタートアップのデータベースのCrunchbaseは、両社の本社所在地をサンフランシスコと記載している。
エストニア本拠のアクセラレータ「Startup Wise Guys」のパートナー、Alexandra Balkovaは、こうした状況をしばらく前から認識していたという。「Grammarlyのウクライナ人たちが、世界中のユーザーに英語を教えていると、同僚とよく冗談で話している」と彼女は言う。
ワルシャワ本拠のVCであるSMOK Venturesの創業者、Borys Musielakは、将来的にビジネス環境がもとに戻れば、ディープテックやAIにおけるウクライナの強みが新しい投資家を呼び込むと予測する。これらの分野は研究開発に長い年月を要するため、簡単に模倣できないのがその大きな理由だ。
WrobelとBalkovaらは、現状ウクライナに不足しているのは国外からの投資であり、同国の強みや、価値の大きな企業を輩出する能力が広く知れ渡れば、海外の投資家を呼び込むことができると考えている。「そういう状況になれば、ウクライナの起業家やエコシステムにとって素晴らしいことだ。ウクライナが示した回復力は、必ず世界の注目を集めるだろう」とMusielakも話す。
しかし、現状ではロシアによる侵攻で100万人以上の市民が国外に逃れており、戦争が終結したときにウクライナのビジネス環境がどのような状況になっているかは予測がつかない。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナを自らの支配下に置くことに執念を燃やしている模様だ。だが、今後の展開がどうあれ、ウクライナのスタートアップが将来的に世界の注目を集めることは間違いないだろう。