早期診断によって生存率が上昇することが分かっています。がんが早期発見されれば、患者にとっては治療の選択肢が増える上、複雑な治療を受けずに済むといったメリットがあるだけでなく、医療システム全体のコストとリソースの節約にもつながります。今こそ、世界のがんコミュニティが一丸となってがん検診の優先順位を組み直し、医療システムと社会の損失を最小化していく必要があります。
肺がんを例に取りましょう。世界では毎年180万人もの人々が肺がんで命を落としており、その経済的負担は全てのがんの中で最も大きく、欧州だけでも肺がんの治療費は毎年約190億ユーロにも上ります。それにも関わらず、現在、肺がん患者のうちステージIの診断が下されるのは、5人に1人に過ぎません。
ラングアンビションアライアンス(Lung Ambition Alliance)向けに作成されたレポート「Lung Cancer Screening: The Cost of Inaction(肺がんのスクリーニング検査:行動しないことの犠牲)」では、低線量CT(LDCT)スキャンを用いたターゲット・スクリーニングによってコスト負担を大幅に低減させ、早期肺がんの発見率を高めることで生存率を改善できるとされています。
実際に、特定の危険因子を持つ患者においてはLDCTスキャンを320回行うたびに1人の命が救われるという研究結果もあります。この数字は他のがんのスクリーニング検査の方がはるかに高く、大腸がんでは800回以上、乳がんでは600回から1700回となっています。
私たちはこれを実行に移すためのツールを持っています。「Partnership for Health System Sustainability and Resilience(医療システムの持続性とレジリエンスのパートナーシップ)」のために作成したケーススタディでは、将来、新型コロナウイルス感染拡大のような医療システムの危機が生じた場合に、がん治療における混乱を軽減するため、大規模な肺がんのスクリーニング検査をスムーズに実施するための戦略を概説しています。
また、米国の研究において、早期がん診断により260億ドルものコストを削減できるという試算もあるように、検診によって医療システムにかかる経済的負担を軽減することも可能です。このアプローチは、がん死亡率の低減という目標を達成するための、医療システムや各国政府による持続的な取り組みを支援するものです。