この記事は、1月17日から21日にわたってWEFがオンライン形式で開催した「ダボス・アジェンダ」の一部です。
・近年、医療の進歩によってがん死亡率は低下していますが、新型コロナウイルス感染拡大のために世界中が不安定になり、がん検診やその治療に混乱が生じています。
・世界のがんコミュニティは、一丸となってがん検診の優先順位を組み直し、医療システムと社会の損失を最小化していく必要があります。
・新型コロナウイルス感染拡大に対するがんコミュニティの対応が、素早く機動的であったことから、がんを次のグローバルヘルス危機とさせないための対策が急速に進展することに期待が高まっています。
パンデミック(世界的大流行)による影響の全体像はまだ明らかになっていませんが、新型コロナウイルス感染拡大の急激な拡大によって、がん治療には混乱が生じています。
自宅待機要請やウイルスに感染する不安から、多くの人ががん検診を見合わせ、定期検診の先送りや、治療を回避・延期しました。腫瘍学ではここ数十年の間に目覚ましい進歩があったものの、診察を受けないとがん患者はその恩恵を得ることができないことから、生存率も早期発見率も低下してしまいました。
それでも、希望はあります。
逆境の時代には、イノベーションやコラボレーションの機会がもたらされますが、今はまさにその時なのです。がん検診、診断、治療の進歩に伴い、世界のがんコミュニティは生存率や早期発見率の低下に歯止めをかけるだけでなく、進歩を加速させるための新たなツールを手に入れることができるでしょう。
新型コロナウイルス感染拡大によって妨げられた、がん治療
パンデミック以前、がん死亡率は低下傾向にあり、そのペースも勢いのあるものでした。米国のがん死亡率は、1991年から2017年にかけて29%低下。EU(欧州連合)では2014年から2019年の期間、男女ともにがん死亡率は低下し続けました。
がん検診の受診率向上、早期発見、診断技術の向上、個人に合わせたオーダーメイド治療などの画期的な進歩によって、より多くの患者がより早期の段階でがんと診断され、必要な治療を以前よりも早い段階で受けることができるようになったのです。
このように多くの面で進歩がありましたが、新型コロナウイルス感染拡大によって世界全体が不安定化し、命に関わるがん検診や治療に大きな混乱が生じています。
米国がん協会がん行動ネットワークによる最近の調査によると、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、現在がんの積極的治療を受けている人の4分の3以上が何らかの形で治療を延期しなければならなかったと報告されています。さらに、米国国立がん研究所は、乳がん検診と大腸がん検診の受診率低下だけを見ても、今後10年間で死者数は最大1万人増加する可能性があると警告しています。