ロシア産「ニッケルの高騰」がEVメーカーに与える打撃

Oleg Nikishin/Getty Images

自動車メーカーは、半導体不足の影響で生産台数の維持に苦戦しているが、事態は改善の兆しを見せていない。ロシアのウクライナ侵攻で原油価格が高騰したことに加え、ロシアで採掘されるEVバッテリーの原材料であるニッケルの価格も急騰している。

ロンドン金属取引所では3月8日、ニッケルの1トン当たりの価格が10万ドル以上に上昇し、取引が停止された。今のところ、ニッケルは制裁対象に含まれていないものの、ロシアに課せられた厳しく広範な国際制裁が価格を引き上げている。

米政府のデータによると、ロシアはインドネシアとフィリピンに次ぐ世界第3位のニッケル生産国で、2021年には25万トンが採掘されていた。ニッケルは、ステンレス鋼の原料でもあり、供給停止は自動車メーカーにとって新たな頭痛の種であると同時に、コスト増を意味する。ウェブドッシュ証券のアナリストのダン・アイブスによると、ニッケルの価格上昇によって、EVの販売価格が1000ドルほど高くなる可能性があるという。

「価格の乱高下は常態化している」と、ベンチマークミネラルインテリジェンスのCEOのサイモン・ムーアは語る。「EVメーカーやバッテリーメーカーは、安定した長期の供給契約を結んでいるか、自社でニッケル鉱山を所有していない限り、コストの上昇に直面することになる」

ニッケルに加え、触媒コンバーターに使われるパラジウムや、バッテリーの材料であるリチウムやコバルトなど、自動車産業にとって必要な他の金属の価格も上昇を続けている。このため、テクノロジーが進展してもEVバッテリーの価格を引き下げることは困難になっている。

ムーアによると、最も打撃を受けるのは、ロシア産ニッケルへの依存度が高い欧州のメーカーだという。ロシアのガスパイプライン「ノルドストリーム2」は、欧州のロシアに対するエネルギー依存を浮き彫りにしたが、ロシアからフィンランドを経由してドイツに供給され、EV用リチウムイオン電池の正極材に使われるニッケルも同様の問題を抱えているとムーアは指摘する。

「欧州は石油やディーゼルのロシア依存から脱却し、内燃エンジン車からEVに移行しようとしているが、皮肉なことに、ニッケルの供給についてはロシアに依存せざるを得ない」とムーアは指摘した。

モルガン・スタンレーのアナリストのアダム・ジョーンズによると、半導体不足やサプライチェーン問題、商品価格の高騰など、自動車メーカーが抱える問題の幅広さは、近年類を見ないものだという。「私は25年以上に渡って自動車業界を分析してきたが、この分野の投資家が直面するボラティリティの大きさや見通しの悪さは、私がこれまで経験したことのないものだ」とジョーンズは述べている。

編集=上田裕資

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