これまで原油価格に関しては、1バレル=100ドルのラインを超えるのは2022年の夏ないしそれ以降になるとの見方が多かった。だが、今回の侵攻をきっかけに、原油価格は3月を迎える前にあっさりとこの壁を突破した。さらに今後も、2022年内は上昇の一途をたどると予想されている。
ウクライナ情勢に関係なく、原油価格は今後、上がることはあっても下がることはないと考えられる。以下にその理由を挙げよう。
油田開発に向けられる資本の不足:全世界が1年に使用する石油の量を「X」としよう。民間および国有の石油会社が「X」にあたる量を供給できるだけの新たな油田を探すプロジェクトに資金を投下できなければ、世界市場は、数年後には必然的に石油の供給不足に陥る。
原油生産能力の世界的な減少:前段で挙げたこの必然的な帰結を、私たちは今、目の当たりにしている。大手アナリスト・データ企業のライスタッド・エナジー(Rystad Energy)とウッド・マッケンジーの両社は2021年の時点で、2015年以降、新たな油田開発に向けた投資が世界的に抑えられてきており、その不足額はこの7年間で4000億~5000億ドルに達していると警告していた。これほど巨額の投資が、長期間行われていない状況にあるわけだ。
需要の急増:同時に、コロナ禍から抜け出しつつある世界の原油需要は急激に回復している。現時点で既に、パンデミック発生前であった2019年末の需要レベルを上回っている。我々がいま目の当たりにしている原油価格の上昇は、「需要と供給の原則」の単純な帰結と言える。
「夏用ガソリン」への移行:3月末からは、米国ではさらにガソリン価格を上昇させる要因が加わる。3月末から4月初頭の時期に入ると、石油精製業者は、地域ごとに決められている米環境保護庁(EPA)の蒸発ガス規制に従い、一握りの種類しかない「冬用ガソリン」から、数十種類のバリエーションがある「夏用ガソリン」を製造するように、設備を転換しなければならない。
この規制により、精製業者は毎年夏季に入ると、冬季に比べてより多くの種類のガソリンを決まった量生産し、全米各地の特定の場所にジャストインタイムで輸送しければならない。そのため、当然ながらコストは上昇する。