ビジネス

2022.03.04 10:00

環境変化に柔軟対応。バランス経営の妙

中村製作所代表取締役社長の山添卓也

「率直にいうと、自社ブランドの製品販売は苦戦を強いられています」


三重県四日市市の切削加工事業者、中村製作所代表取締役社長の山添卓也はそう淡々と話す。「空気以外なんでも削る」をモットーとする同社は、リーマンショック後に特定取引先に依存する下請け工場からの脱却を進め、精密加工の技術力を生かした新事業に挑戦。2018年には、自社ブランドとして無水調理が可能な土鍋「best pot(ベストポット)」を生み出し、一時は納品まで10カ月待ちになるなど注文が殺到していた。

勢いが止まったのはコロナ禍が原因だ。主要販売ルートの百貨店は店頭のポップアップが軒並み中止になり、外出自粛で客足も大幅に減った。

巣ごもり需要で売り上げを伸ばしているキッチン用品メーカーもあるが、そうした企業との違いについて山添は「完全に知名度の差」と言い切る。そこで、顧客接点を増やすための取り組みに注力。

21年、ベストポットを無償で貸与して米を定期的に届ける「お米のサブスク」や、ベストポットで調理した土鍋ご飯を販売するキッチンカー事業を開始した。

22年3月には、ウェブ上で料理教室やライブコマースを行うオンラインサロンもオープンする。「自社ブランド製品のユーザー1.5万人を対象にしたもので、ストックビジネスにつなげたい」。

一方、主軸のBtoBは好調だ。米中貿易摩擦やコロナ禍の影響で20年は苦戦したが、21年は急激に受注を増やしている。

新たに2.5億円の設備投資も決めた。工作機器メーカーなど既存取引先が部品発注先を国内に回帰する動きもあるが、好調の要因は外的環境の変化だけではない。半導体業界や航空宇宙など、時間をかけ粘り強く新規取引先を開拓してきた成果だ。山添が語る。

「『これしかできない』というのでは生き残っていけない。いつ何が起こるかわからない世の中で、環境が激変しても柔軟に対応できるように、事業の多角化を進めてきたのです」

中村製作所は2022年6月期、過去最高の売り上げ12億円を見込んでいる。


やまぞえ・たくや◎1977年生まれ。大阪産業大学工学部卒。2000年に中村製作所入社。01年、代表取締役社長に就任。「Forbes JAPAN SMALL GIANTS AWARD2019-2020」関西大会セカンドローンチ賞受賞。

文=眞鍋 武 写真=大星直輝

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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