「これが真実」 ウクライナのテック企業、ロシアのユーザーにアプリなどで情報発信

Photo by Edward Smith/Getty Images

ウクライナでの戦争をめぐりロシアが国内でフェイスブックやツイッターなどのSNSや自国メディアに対する締めつけを強めるなか、ウクライナのスタートアップが戦争の実態をロシアやベラルーシの人々に知らせようと、自社のサービスを活用した発信に乗り出している。

ウクライナの首都キエフに本社を置き、昨年10月に米ビスタ社の傘下に入った写真素材会社デポジットフォト(DepositPhotos)は、2つの画像コレクションへのリンクを貼ったメールを顧客に送った。ひとつは、いまウクライナで起きていることをとらえた画像、もうひとつは、世界各地でウクライナを支持する人たちが行っている反戦抗議デモの様子の画像だ。

デポジットフォトはロシアの顧客に、プロパガンダ(宣伝活動)本位の国営メディアが伝えない事実を知ってほしいと訴えている。「多くのロシア人は本当に起きていることを知りません。なので、実際に何が起きているのか、それを伝えるメッセージを、すべてのロシア人に送りたいと思いたったんです」(デポジットフォトのヴァディム・ネハイ副社長)

「ウクライナでのロシアの戦争の真実」と題されたひとつめのコレクションには、武装した住民がアパートからケージに入れた猫と水槽の魚を運び出す様子や、赤十字の救急隊員、公園の一角に集められたロケット弾の残骸、地下鉄の駅に避難した人々、ポーランドとの国境を越える難民、爆撃を受けたオフィスビルなどの画像がある。

「世界各地でのウクライナ支持の集まり」と題されたもうひとつのコレクションには、いろいろな都市で反戦のプラカードやウクライナ国旗、ろうそくなどを掲げながら路上で抗議する人たちの写真や動画が集められている。

ネハイは、メールを受け取った顧客からはさまざまな反応が寄せられているとしたうえで、「実際に耳を傾けてくれる顧客やユーザーがごく一部だったとしても、それは役に立つはずです」と力を込める。

人気の顔入れ替えアプリ「Reface(リフェイス)」の運営にかかわるウクライナのチームは、2億回のダウンロード数をほこるこのアプリを、現在の戦争に関するロシアの「検閲」の回避に活用する決断をした。Refaceはロシアに約200万人いるユーザーらに「ロシアがウクライナを侵略した」というプッシュ通知を送り、写真などとともにこの戦争に関する情報を伝えている。Refaceで作成した動画には、青と黄色のウクライナ国旗の透かしが入る仕様にもした。

リフェイスの創業者ディマ・シヴェツ最高経営責任者(CEO)は「ロシアで信頼できるメディアへのアクセスが制限されていることはわかっているので、ロシアの全ユーザーに宛てて、現実の状況を伝えるプッシュ通知を送り、抗議の声を上げてもらうよう働きかけています」と説明する。

このキャンペーンをめぐってRefaceは「星1」の評価を多数受けたというが、シヴェツは「わたしたちの命と自由に比べればささいな代償だ」と動じない姿勢だ。リフェイスには米ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツなども出資している。

ロシア国内では、ウクライナ侵攻は「特別軍事作戦」と称されている。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、ごくわずかしかない独立系メディアは、ロシアによる侵略や民間人の被害について伝えたことで、当局から罰金などを科すと脅されている。

ロシア政府はソーシャルメディアへの統制も強めている。米メタがロシア政府系メディアによるフェイスブックへの投稿を規制したことで、ロシア国内ではフェイスブックなどへのアクセスが制限されている。

By Marty Swant and Iain Martin 編集=江戸伸禎

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