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2022.03.01

一夜にして「戦時下のCEO」に ウクライナ人若手起業家の奮闘

ロンドン交通博物館もミュージミオがVR化した施設に加わった。(lingling7788 / Shutterstock.com)

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、フォーブスは各業界で活躍する30歳未満の若手30人を選んだ「30アンダー30」に入ったウクライナ人起業家らに話を聞いた。そのうちの一人が、仮想現実(VR)教育サービスを提供するミュージミオ(Musemio)の共同創業者・最高経営責任者(CEO)でロンドン在住のオルガ・クラフチェンコ(27)だ。

ミュージミオは、VR化した世界の博物館や美術館を子どもが訪問して学べるサービスを提供している。クラフチェンコはロシアのウクライナ侵攻を受け、従業員の安全のため業務の多くを休止したが、事業存続の決意は固いままだ。「私にできるのは、戦争が終わった時に仕事がない状態にならないように、事業を継続することだけ」

2月24日の午前3時に目を覚ますと、母国がロシア軍によって侵攻されていた。首都キエフ生まれのクラフチェンコは現在、ロンドン在住だが、家族と従業員5人の多くはキエフやその周辺にいる。母親と祖母、10歳の妹は、地下駐車場で一夜を過ごした。

「今最も恐れているのは、電話がつながらなくなって、家族と連絡が取れなくなること」とクラフチェンコは語った。「戦時下のCEOとして会社を運営する方法なんて、誰も教えてくれなかった。特に従業員が皆リモートの場合はどうすればいいのか」

新型コロナウイルスの流行下で、ミュージミオの売上高は6倍に増え、新たにロンドン交通博物館が加わるなど、VR化した施設も拡大。クラフチェンコ自身も、フォーブスによる2021年の「30アンダー30」欧州版で、芸術&文化分野に選出された一人となった。今は、従業員の安全確保に努めている。

「これは人に起こり得る中でも最も恐ろしい経験。周囲の人たちには、共感のレベルを最大限に高め、いつ何が起きてもおかしくないことを理解してほしいと頼んだ」

冷静さを保つため、ニュースを見聞きするのを避け、周囲の人とのコミュニケーションとミュージミオの経営に集中している。「まだ混乱しているけれど、紛争がそう長く続かずに、また通常の生活に戻れることを願っている」

自社の従業員や取引先にウクライナ人がいる人へのアドバイスとしては、現在の危機の中でも一緒に仕事を続けつつ、一定の柔軟さを持ってほしいと訴える。「私たちが今、最も必要としているのは、ウクライナ経済への支援や、私が考え得る中でも最大の悪夢を経験しているウクライナ国内の起業家や家族への支援だ」

編集=遠藤宗生

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