そんな失敗を重ねながらも、努力をすれば性別に関係なく評価される世界だということを、大先輩の活躍を見て確信することができた。それは、キャリアプランを描くうえで大きな意味があった。
一般に、女性は上に立つことを躊躇する風潮があるといわれる。そんな女性の背中を押してあげるのが、自分の役目だと思っている。不安に思う理由もわかるし、不安を解消する方法も知っているからだ。
「上を目指すときにいちばん必要なのは、勇気だと思っています。ガラスの天井を打ち破る最後の砦は、本人の意思なんです。いま、企業は役員の数を減らしていて、大企業でも20人程度。その半分を社外から迎えるとすると、社内で役員になれる人は非常に限られていて、女性となるとさらに狭き門になる。勇気をもって行動しかなければ、機会は与えられません」
2021年9月30日に実施された、日本最大規模の女性アワード「WOMEN AWARD 2021」。授賞式では、ユーモアあふれるスピーチで沸かせた。
一歩踏み出した先の世界は、面白いに尽きる、と言う。男性経営者は大変さばかりを口にするが、それはトップに立つことの面白さを、当たり前に知っているからではないか。知っているから、この地位を長きにわたって女性に譲らなかったのではないか、と茶目っ気たっぷりに話す。
トップはこんなに楽しい──片倉がそう発信することで、自分もやってみようと前に出る女性が増えていく。これこそリーダーの醍醐味だという。自分の言葉や行動が多くの人の心を動かし、行動に影響を与える。そこに、大きな喜びを感じている。
理事長は、1期4年という任期が定められている。片倉は、就任初日に逆日めくりカレンダーをつくった。あと何日残されているかを計算し、任期中にやり遂げたいことを一つひとつ消化しながら、濃密な時間を過ごしている。時間をかけないと実現できないこともあるので、次にどうバトンを渡していくかも、常に考えている。
コーチングに付いている米国人からは、こうアドバイスされた。
「正美はもっと寝たほうがいい」
キャリアのために何か犠牲にしたことがあるとすれば、睡眠時間かもしれない。
左から、Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春、丸井グループ取締役執行役員CWOの小島玲子(インクルージョン賞受賞)、EY新日本有限責任監査法人理事長の片倉正美(ブレイクスルー賞受賞)、モデルの海音(バリュークリエイター賞受賞)、富士電機発電プラント事業本部の武藤寿枝(イニシアティブ賞受賞)、本アワードを共催するLiB代表取締役社長・松本洋介。
かたくら・まさみ◎1991年、太田昭和監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)入所。2011年、シニアパートナーに就任。16年、常務理事企画・広報担当および、EY Japan マネージングパートナーBrand, Marketing and Communicationsに就任。19年、大手および中堅監査法人では初めての女性理事長に就任。50歳という年齢も理事長としては異例の若さで、4大監査法人および大手監査法人において最年少での就任となる。