こうしたゼレンスキーとの対比ほど、プーチンのイメージにダメージを与えるものはない。危機の中で強さを増すゼレンスキーは、ますます度を超えた“B級映画の悪役”のようになるプーチンを引き立てるヒーローのようだ。
プーチンには「想定外」が続く?
プーチンにとっては、こうした事態は想定外だったはずだ。政治風刺ドラマの高校の歴史教師の役で人気を博し、意外にも大統領に選出されることになったゼレンスキーは、政治ウォッチャーたちからは長い間、相手にされてこなかった。だが、どうやら彼の中には、危機の中で鍛え上げられる鋼のような強い精神力があったのだとみられる。
ロシアの特殊部隊に追われる中でも、ゼレンスキーはキエフからの避難を促した米国に対し、「戦いはここで行われている。私に必要なのは移動手段ではなく、弾薬だ」と当意即妙に答えた。
決死の状況における大統領のこの冷静さが、ウクライナの人々の団結を促し、生き残りをかけた戦いに立ち向かう中での重大な計算違いや誤りを見通すことにつながったのは間違いない。
従来の見方で判断すれば、ウクライナはロシアの侵攻開始から数日で陥落するとされていた。だが、力強く、士気を高めるリーダー、すべてを賭け、国と苦しみを分かち合うリーダーの存在が、軍だけでなくすべての国民を動かし、戦い続けることにつながっている。
戦いは、現時点ではロシアに有利に動いているかもしれない。だが、2人のリーダーの違いをみれば、今後がロシアにとってより悲劇的であることは確かだ。ロシアの大統領がその威厳ある力を誇示したいまさにその時に、プーチンは自らの新たな弱さを、際立たせている。