沈黙を警戒せよ 虚実交えた米ロの情報戦争

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ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部の親ロ派勢力が支配する地域の独立を承認するとともに、ロシア国防省に対し、同地域へ平和維持軍を派遣するよう指示した。これに対し、米国のバイデン大統領はただちに、同地域に経済制裁を科す大統領令に署名した。岸田文雄首相も22日、記者団に「独立の承認など一連のロシアの行為は、ウクライナの主権、領土の一体性これを侵害するものであり、認めることはできません。強く非難いたします」と語り、制裁などの対抗措置を調整する考えを示した。

一方、情報分野に詳しい自衛隊OBは「状況が急変する可能性は常にあるが、まだ、外交による解決の望みが残っているように見える」と語る。OBはその理由について、「米国もロシアも相変わらず、騒がしいからだ」と語る。

確かに、今回のウクライナ危機では、米国とロシアが異様なほどの情報戦を繰り広げてきた。まず、米紙ワシントン・ポストが昨年12月3日、米情報機関による報告書の内容として、ロシアが今年早々にも最大17万5000人を動員してウクライナに侵攻する計画を立てていると報じた。ドイツのシュピーゲル誌によれば、米中央情報局(CIA)はロシアが早ければ2月16日にもウクライナに侵攻する可能性があると北大西洋条約機構(NATO)加盟国に伝えた。バイデン大統領は18日、記者団に対して「現時点でプーチン大統領は、侵攻の決定をしたと確信している」と語った。

ロシアはこうした米国の情報戦を「ヒステリー」と非難した。一方で、ロシア国防省は1月下旬、ウクライナ東部との国境に近いロシア西部ロストフ州の演習場に向かうロシア軍戦車部隊などの映像を公開した。今月には同省のホームページやツイッターで、弾道・巡航ミサイル発射訓練を公開した。プーチン大統領による親ロ派勢力が支配するウクライナ東部地域の独立承認や、同地域への部隊派遣指示などもほぼ、リアルタイムで公表している。

自衛隊OBは「本当に侵略するなら、軍派遣の指示などを公表することはあり得ない。一連の動きは、ロシアが国際社会に対して『これからウクライナに入りますが、止めるにはどうしたらいいんですか。どういう条件を出してくれたら下がれるんでしょうね』と聞いているに等しい」と語る。「陸上自衛隊の教範『野外令』にもあるように、奇襲は軍の常識だ。今のロシアの動きは本来の軍事行動とは言えず、欧米に圧力をかけて交渉するための動きと言える」。確かに、ロシア側は22日現在、24日で調整されていた米ロ外相会談をキャンセルする動きは見せていない。
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文=牧野愛博

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