日本のロシア専門家らによれば、プーチン政権は最近、支持率の低落傾向に悩んでいた。軍の強い支持も不可欠だし、最高指導者に就任以来、欧州諸国にやられっぱなしだったNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大に歯止めをかけてレガシーを作りたいという思惑も働いていると言われた。同時に経済は低調で、ウクライナ侵攻による制裁や莫大な戦費の発生による更なる経済悪化は避けたい考えともされた。こうした状況から、わざと危機を作り出して西側諸国に外交的な譲歩を迫る「瀬戸際外交」を行っているようだ。
一方、バイデン政権も昨年8月のアフガニスタンからの撤収を巡る混乱により、外交で失点した。同じ間違いは繰り返したくないが、アフガン撤収を貫いたように、これ以上の海外派兵は避けたい。今月、インド太平洋戦略を発表したように、ウクライナ危機は欧州諸国に任せ、対中国政策に集中したい思惑もある。こうしたことから、積極的に情報戦を仕掛けているようだ。自衛隊OBは「外交で解決したいから、ロシアが危機をつくり出している構図をはっきりさせ、交渉に有利な環境をつくろうとしているのではないか」と語る。
では、世界中の報道機関が伝えている、米ロ発のインテリジェンス情報はどこまで信じて良いのだろうか。自衛隊OBは「内通者などの情報ソースや電波の周波数帯など、情報を獲得する手段が露見するような真似は絶対しない」と語る。米国が「2月16日侵攻説」を唱えたのも、関係者の危機感を高めて交渉の環境を整える意図が強かったのではないかと指摘する。「本当に機密情報を握っていたなら、報道陣に公開せずに、ウクライナに極秘で伝えて対応させるなどの措置を取っただろう」。あるいは、ロシアも米国も外交解決のためには、危機感を高めるのもやむを得ないという判断があったとすれば、ロシア側が敢えて、米国が報道陣に公開することを承知で「2月16日侵攻情報」を流した可能性もあると指摘する。
果たしてロシアは今後、どんな行動を取るのか。日本政府関係者は「バイデン政権がメディアに流す以上の情報を日本にもたらしてくれるかどうか自信がない。米国は常に情報の対価を求めてくるし、日本は欧州諸国に比べ、ウクライナに対してできる手段が限られているからだ。後は、ホワイトハウスとの関係が深いエマニュエル駐日大使を頼るしかないかもしれない」と語る。
自衛隊OBは「もちろん、誤算や誤解もあるから楽観してはいけないが、米国もロシアも騒がしいうちはまだ大丈夫ではないか。両者が突然、沈黙したり、部隊の動きを見せなくなったりしたら、そのときこそ本当の危機が訪れたと覚悟すべきだろう」と語った。
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