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2022.02.17

圧倒的な慎重さと大胆さ。ジャフコ グループが狙うは「全打席ホームラン」

ジャフコグループの藤井淳史


象徴的なのが、ビズリーチが新規事業として展開していたECサイトのルクサを15年にKDDIに売却したときのことだ。藤井は、普通であればファイナンシャル・アドバイザー(FA)に業務代行するようなM&Aの交渉や契約手続きを、南をはじめビズリーチのメンバーと一丸となってこなした。「KDDIさんの投資担当やEC担当の方、弁護士の方、会計事務所の方など、先方の関係者が大会議室にずらっと並んでいるなかで、南さんと二人だけで交渉に臨んだことはいい経験になりました」。

生まれは島根県の山奥にある田舎町。兼業農家を営む家庭で藤井は自由奔放な幼少期を過ごした。思春期になるとバブルが崩壊し、日本経済は「失われた30年」に突入したが、「自分の世代で『日本がダメになった』とは言わせたくない」と、大学は経済学部に進学。日本企業を支援したいとの思いから新卒でジャフコグループに入社した。以来、一貫してベンチャー投資の畑を歩んできた。

若手のころから、藤井にはこだわりがある。「私は根本的に知りたいという願望がすごく強い。定型フォーマットのような『こうすればいい』というものが嫌いで、自分がしっかり納得できるまで、突き詰めたくなるんです」。例えば、スタートアップとの投資契約書だ。会社にはA4用紙20枚ほどのひな型があるが、藤井はこれを使わず、毎回、一から書くのだという。「A3用紙一枚にまとめることもあります。契約書ひとつをとっても、投資の相手も内容も、契約に対する考え方もそれぞれ違う。相手にとっていちばん理解をしてもらえる内容であることが重要。なぜその条項があるのか、ひな型に記載してあることは徹底的に勉強しました」。過去を振り返れば、ルクサ売却の契約書も一から勉強した。「南さんも似たところがありますよね。そういう意味では馬が合ったんだろうな」。圧倒的に慎重で大胆。これは藤井自身にも当てはまることなのだ。だからこそ、二人は投資家と起業家という関係を超え、お互いの真の理解者となった。

ベンチャーキャピタリストになってから18年。このうち、11年をビジョナルの案件に費やした。藤井は、ベンチャー投資を野球の打者に例えてこう語る。「3割打者も2割打者も、一打席を切り出すと、当たることもあれば外れることもある。ただ、それをずっとやり続けることによって大きな差が出てきます。ビジョナルへの投資は、大きな成長の機会になりました。それを次のベンチャーに還元していきたい。今後は、全打席ホームランを狙っていきます」。

文=眞鍋武 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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