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2022.02.17

圧倒的な慎重さと大胆さ。ジャフコ グループが狙うは「全打席ホームラン」

ジャフコグループの藤井淳史

「ベンチャーキャピタリストとして大事にしているのは、自分自身が投資先のために手や足を動かすこと。『ああしたほうがいい、こうしたほうがいい』というアドバイスはいろんな人がすると思いますが、実は何をやるのが正しいのかを考えることは、優秀な経営者であればそれほど難しくはない。いちばん難しいのは、それを実行していくことなんです」

そう語るのは、ジャフコグループの藤井淳史だ。投資先のビジョナルは2021年4月、東証マザーズへ上場。初値ベースの時価総額は2545億円を記録した。藤井にとって、この投資案件は、まさに自身の哲学を体現したものだった。

07年に南壮一郎が創業したビズリーチ(現・ビジョナル)は、会員制転職サイト「ビズリーチ」を軸に事業を拡大。国内スタートアップを代表する一社として飛躍を遂げてきた。藤井が同社に投資したのは10年2月。「次の時代を担うベンチャーになるという期待感は最初からありました」。創業者の南を中心に優秀なメンバーが揃い、緻密な事業プランが練り上げられ、サービスインして間もない「ビズリーチ」の状況も申し分なかった。リーマン・ショック後で転職市場は冷え込んでいたが、当時としては破格の2億円を投じた。

藤井は南について「私がこれまでお会いした人のなかで最も慎重な人。そして最も大胆な人」と話す。南の事業プランは、市場やサービス、競合などの情報を洗いざらい調べ上げ、時には海外にまで足を運んで情報をつかみ、自身が納得できるまで検証したうえで決めたもの。それゆえ一度方針が決まれば足取りは早い。

しかし、万全なプランが描けていても、人材やネットワークなど、足りないものがいくらでもあるのがスタートアップだ。藤井は、一般論や抽象論でアドバイスを語るのではなく、ビズリーチのなかに深く入り込み、会社の状況を徹底的に把握。何が足りないのか、何をすべきなのか具体的なプロセスにまで落とし込み、パートナーの開拓や営業回りにも日々奔走した。日本を代表する大企業の人事担当役員を南と一緒に口説き落としたことも一度や二度ではない。「自分がかかわることで、打率が一分でも一厘でも上がって可能性を広げられるのであれば大きな価値だと思うのです」と藤井。そんな彼を、南は「同士であり戦友」と称する。
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文=眞鍋武 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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