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2022.02.20

米富豪が始めた斬新なオンライン薬局、業界に革新を起こせるか

マーク・キューバン(Christopher Willard/ABC via Getty Images)

米国の著名投資家で富豪のマーク・キューバンが出資する企業「マーク・キューバン・コスト・プラス・ドラッグス・カンパニー(MCCPDC)」が1月19日、オンライン薬局の営業を開始した。同社の薬剤給付管理(PBM、処方薬の適正管理プログラム)事業の立ち上げからわずか2カ月というスピード展開となった。

MCCPDCが当初販売する医薬品の調達先については、いまだに詳細な情報が少ない。一方で同社は、建設を進めている新たな製造拠点を、2022年末までに完成させるという計画を明らかにしている。

マーク・キューバンが立ち上げたこの事業が今後、業界に衝撃を与えることには疑問の余地がない。だが、一部のメディアが予想するほど破壊的な変化をもたらすものになるかは疑問だ。その理由は2つある。

第1に、MCCPDCが提供する医薬品の品目は、ジェネリック(後発薬)に限定されている。スペシャリティジェネリック(特化型新薬の後発薬)の価格設定には確かに問題があるものの、先発医薬品の価格設定にまつわる問題に比べれば微々たるものだ。先発医薬品に関しては、販売開始時の高い価格設定や、一部の既存の先発医薬品で年に一度の価格改定時の値上げ率がインフレ率を上回っている点などが問題として指摘されている。

第2に、MCCPDCが運営するオンライン薬局の業務領域には、いくつかの制約がある。現時点で提供されている医薬品は100種類と、その品揃えは比較的小規模だ。さらに重要なことに、キューバンが立ち上げた同社では、処方薬の保険請求手続きを行っていない。確かに、医療保険に未加入の人にとってはこの点は問題にならないし、MCCPDCによって低価格のジェネリック医薬品を入手できることは、非常に有用だろう。

同様に、医療保険に加入済みの場合でも、保険の免責額の設定が高かったり、あるいは、保険でカバーされない部分があったりする場合には、MCCPDCが助けになるはずだ。しかし、免責額の問題を除くと、多くの保険加入者は、MCCPDCに大きな魅力を感じないだろう。

加えて、保険加入者がMCCPDCのオンライン薬局を利用した場合、その自己負担額は、年間でカウントされる保険の免責金額や、保険対象外の分野の累積支出額には加算されない。そのため、MCCPDCのオンライン薬局で取り扱っていない処方薬(つまり、大部分の医薬品)に関しては、免責額を超えて保険が適用されるようになるまで、保険加入者であっても自費で購入することを余儀なくされる。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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