ビジネス

2022.02.17

アマゾン ウェブ サービスのDXエバンジェリストが語る「顧客起点」のサービス変革

アマゾン ウェブ サービス ジャパン デジタルイノベーション・リード 松本肇子氏


まずは主語を「お客様」に置き換える


アマゾン ウェブ サービス(AWS)で私は、銀行をはじめとする金融各社を担当しています。

金融機関は社会インフラとしての立場上、システムなどの堅牢性や信頼性の担保という社会的責任があること、また法令順守の意識が歴史的にそもそも強いことから、「顧客起点」の考え方を優先しづらい環境に置かれています。「失敗が許されない(お客様も許さない)」という文化が、発想の転換や体質の変革を難しくしていると思います。

2021年度の金融庁の行政方針で「顧客本位の業務運営」が主要な取組みテーマとして取り上げられている背景にも、そんな事情がありそうです。

それもあって、金融機関の人たちに主語を「われわれ」でなく「お客様」に置き換えていただくため、半日、あるいは丸1日かけてワークショップを行います。エグゼクティブの方と直接行うケースもあれば、エグゼクティブに任命された精鋭メンバー諸氏と行う場合もあります。

ワークショップではまず「どんなお客様がいるか?」を尋ねます。そのために、参加者には事前にお客様へのヒアリングをしておいてもらいます。

お客様が企業(B)であっても、やはりその先にいる個人のお客様(C)をイメージすることが重要です。若いお客様なら「住宅ローンを組みたい」「子どもの学資を貯めたい」、シニア層なら「老後資金の貯蓄を」などのWantがあるのではないでしょうか。そういうお客様の多様なWantをできるかぎり具体的にひも解いていくためにも、事前ヒアリングは必要になってきます。

「仮想プレスリリース」には「顧客の想定セリフ」を引用


アマゾンのサービス開発では、「プレスリリースから始める」ことが必ず使われる手法です。ワークショップでもお客様のペルソナがはっきり見えたら、次に「仮想プレスリリース」を書いてもらいます。

その時にお願いしているのが、「お客様が将来このサービスを使って喜んでいる姿を想像する」ことです。そのために、必ず仮想の「お客様の言葉」を入れてもらいます。お客様の喜んでいるセリフを、「その人はどんな人か? どこに住んでいてどんなお金の使い方をしているのか?」をイメージしながら書き込んでもらうのです。180度視点を転換して、お客様の立場からストーリーを描いてもらうのです。


「アマゾンのサービス開発では、「プレスリリースから始める」ことが必ず使われる手法です」

アマゾンではプレゼンの際、パワポではなく、ぎっしりと文字ばかりが書かれた6ページの資料が使われます。箇条書きや要点だけだと行間の読み方に多様性が関与し、人によって解釈の違いが生じやすい。その小さなブレが、プロジェクトの進行にしたがって大きくなることがあるのです。そしてもう1つ、なによりも、「ナラティブ(物語)」を大切にしているからです。

ですから、「仮想プレスリリース」を書いてもらう時は、これからつくろうとしている新しいサービスやモノで顧客の体験がどう変化するのか、「1人の人が幸せになる」物語をイメージしてもらうようにしています。

──私が初めて行ったワークショップに、顧客先の企業内弁護士さんが参加されていました。その方の次の言葉が、いまでも印象に残っています。

「これまではコーポレートカウンセルの立場として、『避けるべきこと』を指摘し、『牽制』することを意識していた。でも今回のワークショップで、『できない』と考えていたことについて『本当にできないのか? どうしたらできるのか?』の視点で考え直しました。その結果、できることが少なくないことに気づいた。

なによりも『どうすればルールから外れないか』ではなく、『どうすれば顧客のためになるか』を考えるようになった。そんなふうに『顧客視点で考える』視点に気づかされたことは、大きな自分の思考変容にもつながりました」

この言葉を聞いたとき、ワークショップをやって本当によかった、としみじみうれしかったことを覚えています。(後編 アマゾンAWS X イーデザイン損保の「ありそうでなかった」サービス、合言葉は『顧客起点』に続く)




松本肇子(まつもと・はつこ)◎アマゾン ウェブ サービス ジャパン デジタルイノベーション・リード。毎日新聞社に勤務の後、2000年7月、アマゾン ジャパン(現アマゾン ジャパン合同会社)ローンチのため、ブックス チームの初めてのエディターとして入社。その後、​​メディア商品、キッチン用品、家電、ファッションなどの新ストアの立ち上げに参画のほか、アマゾン初のサステイナビリティプログラムAmazon Greenを担当。マーケティング、プロダクトマネージメント業務を通じ、一貫してカスタマーエクスペリエンス向上に従事した後、現職。2011年よりCX Bar Raiser。

文=石井節子 写真=曽川拓哉

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