見込み客と会って、有意義な話し合いができたとしよう。相手の目指すものやこれまでうまくいったことを明確にでき、今後想定される障害を先方に示すこともできた。会話はこの「エンロールメント」段階から、次の合意段階へと移る。
合意段階であなたが下すべき重要な決断は、見込み客に対して全ての仕事を網羅した契約を提案するのか、あるいは、相手が考えるまでもなく即座に同意できる内容を提案するのか、というものだ。即座に同意できる提案とは、格安かつ、期間も非常に短いものだ。
経営管理コンサルタントのラリー(仮名)による実例を見てみよう。ラリーはまず、見込み客とのエンロールメント段階の会話内容を徹底的に研究した。合意段階では、年間1万5000ドル(約170万円)の契約を提案することもできたが、「でもこれは今の御社には合わないと思います」と告げた。
その代わり、1〜2か月間かけて全体的なアセスメントを実施する方が理に適っていると提案。かかる費用は月1300ドル(約15万円)で、支払いはクレジットカードで可能だと伝える。アセスメントでは、相手側の経営陣を含めた聞き取りを行う。これにより、相手企業内のコンセンサスに基づいて、本当に必要な業務範囲を特定することができる。
ラリーは、相手の許可を得た上で、エンロールメント段階のやり取りを記録した録音データを私に共有してくれた。考えるまでもなく即座に同意できる内容を提案したラリーに対し、見込み客は「うれしいですね。あなたを含めて8人の経営コンサルタントと話し合ってきましたが、簡単にできるアセスメントから始める提案をしてくれたのは、あなたが初めてです」と語っていた。
そして見込み客はラリーにクレジットカード情報を渡し、2か月間のプロジェクトが始まった。2か月のアセスメントで得られた業務範囲と費用に満足したクライアントは最終的に、本格的な契約に署名。アセスメントから始める手法に大変満足し、別部門の幹部にもラリーを推薦してくれた。
ラリーの手法は、見込み客の思考を操るマインドゲームなどではない。クライアントに真の価値をもたらすもので、簡単なステップから始めることで、見込み客の心理的なリスクを減らすことができる。
最後のアドバイスとして、見込み客との会話を録音・録画するのは、かなり有効な方法だ(ただし相手の了承を必ずとること)。ビデオ会議で会話する場合は、録画も簡単だろう。筆者のクライアントの一人であるフレッド(仮名)は、見込み客との有意義な会話を全て録音して書き起こしたおかげで、相手の正確な発言内容を分析できた。見込み客の言葉を使って提案すれば、クライアントを獲得できるチャンスも広がる。