こうしたなか、米銀大手5行(ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、シティグループ、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ)が昨年、従業員に支払った報酬は総額でおよそ1420億ドル(約16兆3000億円)にのぼった。ほかの銀行やプライベートエクイティ(PE=未公開株)投資企業、ヘッジファンドなどの分も合わせれば、その額がさらに膨れ上がるのは言うまでもない。
大手金融機関もまた、昨今、現場労働者の間で広く見られる傾向と無縁ではいられないようだ。各社とも人材確保のための支出を渋れば、最も優秀な従業員を競合他社に奪われかねない。幹部たちは、自社のバンカーやブローカー、トレーダー、コンプライアンス担当者らには、自社以外にもさまざまな選択肢があるという点を認識している。そこで、人材流出を食い止めたり、優秀な人材を引き寄せたり、また最近のインフレ高進に対応するためにも、従業員の報酬を引き上げざるを得ないというわけだ。
ウォールストリート・ジャーナルが関係者の話として伝えている内容によると、ゴールドマンは昨年、パートナー約400人に対して計5億ドル(約570億円)の特別な株式報酬を支払った。全体では44億ドル(約5000億円)も増加した。同年の報酬支払額はJPモルガンも36億ドル(約4100億円)、シティも29億ドル(約3300億円)それぞれ増えている。
フィナンシャル・タイムズによると、ゴールドマンの2021年の平均給与は40万ドル(約4600万円)強で前年から22.8%増えた。ただ、ウォール街の大手行には年数百万ドル稼ぐ人もいれば、一般的な従業員では9万ドル(約1000万円)程度の人もいるという点は押さえておく必要があるだろう。
ゴールドマンのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は、業績好調な年の従業員への見返りと証券業界内の「賃金インフレ」への対応という2点から、報酬引き上げ圧力は正当化されるとの見解を示している。また、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは「われわれは給与面でも競争力をもつようになる」とし、そのために株主の利益が多少圧迫されても仕方ないと述べている。ソロモン自身は昨年3500万ドル(約40億円)、ダイモンも3450万ドル(同)の報酬を得ている。
もっとも、金融業界の高額所得者たちはそれなりの代償も払っているのだろう。2020年にはゴールドマンの若手アナリストらが、週100時間を超える労働を強いられていると不満を訴えたと報じられた。