そんななか、賢い戦略の一つが、円満退社した元従業員を探し出し、戻るつもりはないかと打診するという方法だ。企業幹部のヘッドハンティングを仕事とする筆者も、担当した人物が数年、あるいはそれ以上のブランクを経て、以前所属していた会社に復帰する手助けをした経験がある。こうした事例は実はとても多く、なかには、1人の人が同じ会社に3回にわたって退社と入社を繰り返した例もある。
こうした元従業員は、以前務めていた企業のことをよく知っており、そのビジネスモデルにも慣れ親しんでいて、いまだにそこで働いている親しい友人がいる可能性もある。であれば、復帰してもらえば即戦力として役立つのではないか、という考えが成り立つわけだ。さらに、その職種の給与や社会的地位が大きく向上している場合、こうした「ブーメラン従業員」は、まるで英雄の帰還のように、復帰を歓迎されていると感じるだろう。
だが、復帰の実現は容易とは限らない。元従業員を呼び戻す前に、企業はデューデリジェンスを行い、当該人物が素行不良、あるいは企業の規則や方針に反したために退職を促された経緯がないか、チェックする必要がある。「大退職時代」が到来している米国では離職率が高まっており、戻ってくる予定の従業員のかつての行状について証言できるスタッフが、1人も残っていない場合もあるはずだ。
人事部門は、この人物が退職した理由をチェックしなければならない。当時はこの企業であまり成長の余地がなく、数段飛びの出世がかなうような格好のオファーが舞い込んだために辞めた、というのなら、あまり問題がないケースと言えるだろう。この場合、元従業員が、以前の在職時と比べてより高い地位に就けるのであれば、ベストな形での復帰となるはずだ。
一方、異なるタイプの求人市場においては、採用担当の管理職が「一度辞めた従業員は、復帰してもまた辞めるかもしれない」と懸念するかもしれない。そうなった場合、後任となる人材を探し、応募者選考を行い、入社・研修させるために再び時間を費やす必要が生じるが、これは時間、気力、リソースがかかるプロセスだ。採用責任者は、ブーメラン従業員が再び辞めるリスクを認識しながらも、採用せざるを得ない状況に追い込まれることもあるだろう。