豆腐を脱水し、圧縮して麺状に切ったもので、中華料理のコースで出てくる「きゅうりと和えてある細切りの干し豆腐」といえば、なんとなくその姿を想像できるだろう。中国や台湾で昔から食べられている伝統食材で、弾力のある食感とほのかな豆の香りが特徴だ。
低糖質で高タンパクなヘルシー食材ということで日本でもヒットしている豆腐干。最近はコンビニのお惣菜やレトルト食品としても商品化され、クックパッドの「食トレンド予想2022」にもランクインした。
その形状や味の淡白さから、麺の代用品としてパスタやラーメンなどに使っても違和感がなく、糖質制限の強い味方として、雑誌やテレビでも取り上げられている。中華食材の輸入、販売を行う友盛では、2021年の豆腐干の輸入量は、2020年と比較して、20%から30%も増えたそうだ。
豆腐干
台湾ではいろいろな種類も
豆腐干の歴史には諸説あるが、一説によると、紀元前の漢の時代から豆腐がつくられていた中国河北省の高碑店市あたりが発祥だといわれている。
仏教の台頭により菜食の需要が高まると、この地域では豆腐の他にもさまざまな豆製品がつくられた。豆腐干もそのひとつで、豊かなコクとしなやかな味わいで、当時の菜食には欠かせない食材となったという。
清王朝の皇帝や皇子も食べて感動したということから、皇室に献上する高級食材としても認められるようになり、後に商人たちによって全国に持ち込まれ、広く一般に食されるようになった。
筆者の暮らす台湾でも、豆腐干は日常的に使われており、特に「涼拌干絲(リャンバンガンスー)」という冷菜は、水餃子や麺の店では必ず見かけるメニューである。
家庭でも、肉やネギなどと炒めた「干絲炒肉絲(ガンスーチャオロウスー)」という料理が、人気のおかずとして食卓に並ぶ。黄ニラやもやし、台湾セロリ、切り昆布などとも相性がよく、シンプルに炒めると香りと食感が引き立つ。
台湾では「知らない人はいない」というくらい認知度の高い豆腐干だが、現地では「豆腐干」という名前ではない。豆腐干というのは、脱水して圧縮した硬めの食感の豆腐の総称であり、それを細長く切ったものは「干絲(ガンスー)」と呼ばれているのだ。
市場にて。真ん中が白い豆腐干、左が黒い豆腐干
さらに、日本で「豆腐干」と言われているものは、台湾では「白干絲(バイガンスー)」と表現され、主に冷菜に使われる。炒めものなどには、サトウキビのキャラメルで茶色く色付けされた「黑干絲(ヘイガンスー)」が適しており、市場で豆腐屋のおばちゃんに「干絲ください」というと、必ず「白いの? 黒いの?」と聞かれることになる。