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ビジネス

2022.02.03 17:00

建築家のイメージを変える業界の反逆児、谷尻誠──北野唯我「未来の職業道」ファイル


北野:僕は自分が小さいころ、父親に何かをねだると「買うんじゃなく、つくるほうが面白い」と言われてDIYでつくらされたんです。振り返るとそれがよかった。不便だからこそクリエイティブを磨く機会がありました。

谷尻:昔は答えがすぐ探せないから、一生懸命に「どうやってやろう?」と知恵を絞り、クリエイティブがどんどん育まれていた。いまは「できないクリエイティブ」の人が多いんですよ。「こうだからできない、ああだからできない」と「できない理由」はたくさん述べられるけど、「こうだったらできる」と言える人があまりに少ない。だから、会社や学校では「できる」をつくらないとダメだよ、と話します。

支配せず、建築に余白を残したい


北野:あらためて、谷尻さんがつくりたいのはどんな建築なんでしょうか。

谷尻:設計者や建築家は、ひとりの思考でつくることが多い気がするんです。でも僕は、自分だけで完成するものより、クライアントの方だったり、スタッフだったり、いろんな人の指揮権が交ざりあって出来上がるもののほうが「余白」があって好きなんです。あまり「支配しきらない建築」というか。

北野:確かに、谷尻さんからは「支配しきらない」感じがします。これって好き嫌いですか?

谷尻:10年前ほど前に「本当にいいものって何なのか」とじっくり考えたんです。たどり着いたのは「よくわからないけどいい」ものが最強だという結論でした。「こうだからいい」というものは、「こう」という部分が破綻するとダメになる。でも「なんかいい」だと、どこかが破綻しても、まだいいはずなんです。そのときから全部をきっちりデザインしてよさを定義するより「なんとも言いようがないけど、いいよね」という建築を目指すようになりました。

建築家やデザイナーって、支配しがちなんですよ。「家具はこれを置いてください」みたいな。それ、家でパンツ一丁で歩けない気がするじゃないですか(笑)。でも、僕は家でパンツ一丁で歩きたいから、そういう余白があってほしい。

北野:最後に、これは僕の夢でもあるんですが、もし1兆円の予算で巨大な公園をつくれるとしたら、どんなものにしますか?

谷尻:自然のなかにアート作品がちりばめられた公園がいいです。僕ひとりじゃなく、いろんな建築家や彫刻家に「泊まれる彫刻をつくってほしい」と依頼します。その中に滞在できる作品をつくってもらう。泊まらないと体験ができないアート作品なら、たとえ1泊50万円でもいいじゃないですか。そういうものを将来つくってみたいです。


谷尻 誠◎1974年、広島県生まれ。建築家・起業家。94年穴吹デザイン専門学校卒業。2000年に建築設計事務所サポーズデザインオフィスを設立、14年に法人化して吉田 愛と共同主宰。社員と社会の食堂「社食堂」、「BIRD BATH& KIOSK」、キャンプ事業の「CAMP.TECTS」、自然環境を生かしたネイチャーデベロップ事業の「DAICHI」、「絶景不動産」「未来創作所」「tecture」「社外取締役」「toha」などを経営。穴吹デザイン専門学校非常勤講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授。

北野唯我◎1987年、兵庫県生まれ。作家、ワンキャリア取締役。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問などを兼務し、20年1月から現職。著書『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『内定者への手紙』ほか。近著は『戦国ベンチャーズ』。

文=神吉弘邦 写真=有高唯之

この記事は 「Forbes JAPAN No.087 2021年11月号(2021/9/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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