ビジネス

2022.02.03 17:00

建築家のイメージを変える業界の反逆児、谷尻誠──北野唯我「未来の職業道」ファイル


北野:職業には2つのフェーズがあると思っています。最初は「普通に働く」「お金をもらう」フェーズ。それを突き詰めると、その人の「職業道」みたいなものが現れるフェーズになるんです。キャリアを振り返って、「U2」以外の転換点を挙げるとしたら?

谷尻:この「社食堂」ですね。2017年に「こういう働き方はなかった」という場所をつくって、急にSlackやソニーなど、オフィスの依頼がたくさん来ました。「こんな提案ができます」というリアルなポートフォリオをつくったら説明がいらなくなった。

僕は「アイデアに価値はない」と言うんですよ。アイデアは誰にでもあるけれど、形にして初めて価
値になる。早く形にしないとダメだと意識してから、どんどん加速した感じです。

北野:やはり建物は一生つくり続けたいですか?

谷尻:建物をつくることはすごく好きなので、それをやり続けたくて新たな事業を立ち上げている面はあります。建築家の「いつかこんなものがつくりたい」という思いは、頼んでくれる人と相当うまくいかないとつくれない。でも、自分で敷地を見つけ、建物を建て、世の中に「これがいい」と伝えたら、それに共感する人が来るんですよ。もう依頼を待つのはやめようと。

北野:会社もたくさん設立されていますね。

谷尻:趣味は「法人化」と公言しているくらいで、経営する会社が10個ほどあります。

北野:すごい! 忙しくても、人生が楽しくて仕方がないんじゃないですか?

谷尻:めちゃめちゃ楽しいです。特に、最近は子どもと行き始めたキャンプですね。それまでは仕事と遊びに線引きしていたんですが「外遊びが仕事になったら最高だな」と思って、これも事業化したんです。

北野:キャンプでインスピレーションを受けるのは、どんなことですか?

谷尻:東京に住んでいると、誰かがつくったものにお金を払えば、決められたモノやサービスが提供してもらえる。考えずにできてしまうことばかりで、すべてが受動的なんですね。

短時間でも自然の中に入ると、「どうやって火をたくのか」「どこにテントを張るか」「天気はどうか」と能動的に考えて行動します。クリエイティブに生きるうえで、こうした能動性がないと「考える」という時間が生まれてこないと思ったんです。不便さのなかに自分の身を置く時間を積極的につくらないと、現状のまま惰性で会社を経営してしまい危険だなと思って。できるだけ自然に身を置いて考える時間をもち、自分に負荷を与えるようになりました。
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文=神吉弘邦 写真=有高唯之

この記事は 「Forbes JAPAN No.087 2021年11月号(2021/9/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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