実質成長率が実質金利を上回っていれば、債務は維持可能だ、という考え方もある。これは、この条件が成り立っていれば、毎年の(基礎的)財政収支を均衡させることで、長期的に債務・GDP比率を低くしていくことができるからだ。しかし、現在、成長率が金利を上回っていたとしても、それが未来永劫続く保証はない。
公的債務が積み上がると、国債金利が上昇して、予算に占める金利負担が上昇してマイナスの効果をもたらす。だが、1990年以降、先進国では名目国債金利が長期的に低落傾向にあり、長期的に維持可能な(均衡)実質金利も低下してきたと考えると、より高い債務水準を維持できる。彼らは、日本がMMTの正当性を証明している、という。
しかし、現在の日本には、財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも見逃している問題がある。それは日本の人口減少である。20〜64歳の働き手の人口は、1998年をピークに減少を続けている。
10年国債の発行による財政刺激とは、現在生きている世代が、財政支出の便益(例えば所得の給付)を享受する一方、国債の償還は10年後の世代が行う。
現在、便益を享受しながら、10年後には他界している(あるいは海外に移住する)人たちは、便益だけ受けて、その負担は負わずに済む。その意味で、国債発行は将来の勤労世代から現世代への所得移転である。
このように考えると、国債発行は、賦課方式の年金(現在の勤労世代が払う保険料が、現在の年金世代へ支給される)に似ている。継続的な財政赤字と国債発行も賦課方式の年金も、将来世代の人口が減っていく経済では、適切な政策とは言えない。(1月7日記)
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。