山田:その中で橋田さんはオリジナリティを作っていらっしゃる。お客さんの反応は?
橋田:やっぱりお金にシビアですね。最近だと、お店で「こんだけ出してるんだから、ウニがボーンとなっていないと嫌だ」っていうお客様も結構いて、僕はちょっとデリカシーがないな、センスない方にいっちゃってるな、と思っています。
それと、何の料理が出るかを全部聞きたがる人が圧倒的に多いんですよ。僕の場合はサプライズで面白く出したい部分もあるんで、言っちゃったらつまらないなと思うんですけど。マジシャンが「ここから鳩が出るからね」って先に言っても喜ぶというか。鳩が出るってわかっていて「本当に出た!」ってサプライズする人たちが結構います。
山田:それはつまらないですね。そういう中で橋田さんが心がけていることや価値ってなんですか?
橋田:自分らしさ、アイデンティティをどこに持っていくかということ。お寿司屋さんには元々“シグニチャー”なんてないんですが、親父が面白く切ったマグロや、僕が作るきれいなあん肝の美味しいヤツをうちのシグニチャーにしています。
前にテレビを見ていた時に、叶姉妹さんが「あの国のあのお店のメロンのスープが美味しいのよ。そこのシグニチャーでね。だから私、あの国に行っちゃうの」って話してたんですよ。旅する理由がメロンのスープって、すごくないですか?
山田:すごい、すごい。
橋田:「あの店のなになにが食べたい」って飛行機に乗って食べに行くようなものにできるなら、俺はシグニチャーを作るぞ、と。
山田:シグニチャーのほかに、橋田さんご自身やお店のコンセプトで価値を置いているのはどこでしょうか。
橋田:最近僕が作った造語に、「賞味八景」というものがあります。今後僕が料理を作っていくにあたっての哲学で、「賞味」はいただく、「八景」はエモーショナルなところを含めた思い出の一ページという意味です。
僕の思い出の中から、旅先で会った人や見た光景、ハプニングも含めて、その国・その場所・その時間だったからこそ出会えたことをストーリーにして、今ある時期の食材に落とし込んで作れたらいいな、と。もちろんやりすぎず、自分の店のカラーに合ったように。それは僕にしかできないことですし、その方が面白く料理できるかなと。
山田:そうすると、お客様はある意味旅しているような感覚で食を楽しめる。
橋田:そうです。「賞味八景」はコロナが流行るずっと前に作ったんですけど、コロナになってから「こういうクリエーションでお客さんにストーリー伝えて、この場でちょっと旅させることできるな」って思った瞬間に、「この言葉を作ってよかったな」と思ったんですよね。
山田:シンガポールって、Z世代も含めたヤング富裕層が多いイメージですが、実際はいかがですか?
橋田:多いですね。ただ彼らは、いい教育は受けていると思いますが、家にお手伝いさんがいるからなのか、食事を「出してくれて当たり前」って感じで携帯見ながら食べている子や、「だって金払ってるんだから」って子もいます。