富裕層に選ばれる「高付加価値」とは? シンガポールの寿司屋の場合

「Hashida Tokyo」寿司職人兼オーナーシェフ 橋田建二郎氏(左)、Urban Cabin Institute パートナー山田理絵


橋田:一方で、シェフと喋りたいという子もいたり、「僕は飲めないけど、お父さんお母さんがいつもシェフにお酒をあげているから、僕は飲まないけどシェフ何か好きなの飲んで」と気遣える子もいたり、いろいろですね。

山田
:実体験を楽しむよりも、バーチャルな中で生きているというか、スマホの中で行き交う情報の方に気を取られている感じですね。

橋田:家族で食事に来ても、それぞれがスマホで違う友達とメッセージしていたりします。同じ場所にいるけど、会話している相手は全然違う。「あれ?」って思うし、この先が怖いと思いますね。その子たちが大人になるんで。一方で、「ようやくシェフの前に座れた!」とエンターテイメントを楽しんでくれる家族もいて、もちろん僕はそっちの方が嬉しいです。



山田:この先どんな社会になっていくのか。教育が鍵を握るのでしょうか。

橋田:ある時、スイスの銀行の方が、お金持ちの2代目、3代目の子たちを連れてきて、僕が2代目として受けた教育を喋りながら寿司出す機会がありました。「親がどう教育していいか分からないから」と。その場は、スマホ禁止だったんですよ。そうしたらみなキラキラしていました。それが今にどうつながっているかは分からないですけど、そういう場が必要だと思います。

山田:そうすると、上質な時を楽しむ感覚が醸成されていきそうですね。

橋田:はい。こういう教育は早くから行う方がいいと思います。

山田:橋田さんは、ハイエンドなお客さんと対峙するには、自分も人生を楽しんでいないと、とおっしゃっていますね。



橋田:はい、ほんとにそう思います。僕が黙々と料理を出したいタイプじゃないというのもありますが、お客さんにとっては、今日僕の前にいることや、うちで寿司食べたことが人生の1ページになるかもしれない。そこでもし、僕の知識や経験が足りなかったら、そのお客さんとコミュニケーションのキャッチボールができない。僕は趣味もたくさんありますが、常にいろんなものを読んだり、見たりするようにしています。

山田:最後に。日本はハイエンドな価値を提供できる国だと思いますか?

橋田:できる国だと思いますね。一方で現実は、なんでもすぐに手に入る“コンビニエンスな国”になってしまっていて、大切にしなきゃいけないところが薄れている、という気がします。

それと、失敗を恐れてる人が多い。「石橋を叩いて渡る」ってありますが、目的がゴールに行くことであれば、別に石橋を叩いて渡らなくても、川に飛び込んで泳いで渡っちゃえばいいじゃん、って思うんです。いろいろな方法がある中で、これじゃなきゃいけないみたいになってるのもよくない。だから自分から殻を破って失敗しにいくぐらいの人が必要なんだと思います。

文=山田理絵

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