ライフスタイル

2022.01.22 17:00

職場から家庭へ、都市から地方へ。「身体に優しい」働き方改革とは

鈴木 奈央
1897

在宅勤務によって確保された時間の一部は、調理にあてられ、塩で“味をつける”料理から、時間をかけて素材から“味を引き出す”料理へのシフトを促す、と僕は期待しています。素材から味を引き出すことは、UMAMI(旨味)を引き出すことであり、濃い味付けからの脱却を意味します。

つまり、身体に優しい働き方改革とも言えるでしょうか。労働のストレスを癒すために、美味しい料理を食べて欲を満たすという行為から、お味噌汁や郷土料理にほっとするような、UMAMIによる満足感の充実による人間性の回復。これは最近話題のウェルビーイング実現の一助となるはずです。

ただ、クックパッドの調査によれば、失業や収入減などコロナの直接的な影響もあり、まだ思っているほどの変化は起きていないようです。世界の国々(中国を除く)で「家で1週間に料理をした回数」を調べたレポートによると、2019年が平均6.4回に対して2020年は6.9回。変化が大きかったのは北米、ラテンアメリカ、ヨーロッパの国々で、日本は同6.1回から6.3回という結果でした。


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一般的に第4次産業革命というと、効率化による生産性向上、人材不足の打開策として注目されていますが、働き方が変わることで僕がもう一つ期待したいのが、都市から地方に回帰する流れです。最初の産業革命によって起きた都市への人口集中と逆の流れともいえます。

実際、コロナ禍において地方へ移住する人、2拠点生活にシフトする人は増えており、移住先で家庭菜園を始めたり、近隣の海の幸や山の幸を食したりすることで、都市では感じにくかった気候風土の感覚が取り戻されているように感じます。

忙しさの中で見過ごされていた料理時間が確保され、食卓が増えれば、家庭での絆が強くなります。そして、気候風土に結びついた地域の伝統料理が復興すれば、土地と人、人と人の交流が生まれ、それが地方創生につながっていきます。


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幸い、地方の田舎にはまだまだ昔の味を知る世代がいます。彼らが引き継ぐ先人たちの味を頼りに、共に地方の味を学びなおし、自然と暮らす地方の豊かな価値を見出すことが、豊かな暮らしを作っていくのではないでしょうか。

そうして、いずれ料理のルネッサンスが起こる。僕はそう思います。「料理しろ」とは説教したくはない。男性も女性も、喜んでキッチンに立ってほしい。料理は義務ではなく、満足感を得られるウェルビーイングそのものです。

文=松嶋啓介

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