顕著な例を中村氏が紹介してくれた。「HADO」の大会を慶応大学で開催した際、ゲストとして参加したレスリングの金メダリスト吉田沙保里選手が6歳の子どもと真剣勝負をして負けてしまったのだ。
「そのあとしばらくして吉田選手が引退されたので、その影響かなと申し訳なく思いました、というのは冗談ですが(笑)。でも、超人スポーツならば6歳の子どもが吉田沙保里さんに勝つこともできるんです。パラスポーツの世界は、走り幅跳びのマルクス・レームという義足の選手が、オリンピックの優勝記録を上回る成績を出しています。こうなってくると健常者と障がいのある人を分ける壁のようなものは、もう崩れてきていると思うんです」(中村氏)
極端な話をすれば、健常者が義足のような機械を身につけ、人機一体となって義足の選手と対等に勝負をする。そうしたスポーツのジャンルがあってもいいのではないかと中村氏たちは考えているのだ。
(c) HADO by meleap inc.
いま注目の超人スポーツ「スピリットオーバーフロー」とは?
最近、世界的にも注目を浴びている超人スポーツのひとつが、ディレクターの安藤良一氏らが開発した「スピリットオーバーフロー」。近未来の東京を舞台にしたバーチャル空間で、自転車を使って陣取り合戦をする、多人数参加型オンラインeスポーツだ。
「スピリットオーバーフロー」のプレーシーン。対戦しているのはカヌーとパラカヌーの競技者。(c) Spirit Overflow by KINIX
「同一サーバー上であれば国などに関係なく誰でも快適に競技ができます。プレイヤーはプレー方法を選択することができて、ひとつは自転車のような形状をしたものに乗ってハンドルを操作することでバーチャル空間上の自転車を動かす方法。もうひとつは身体にセンサーをつけて体の傾きで操作するもの。こちらは下肢障がいのある方でもプレーすることができます。プレー中はアバターのようなものが表示されるので、対戦している相手が女性か男性か、車いすの人か?などは基本的にはわからない仕組みになっています」(安藤氏)
「スピリットオーバーフロー」の開発者の一人、安藤良一氏
この競技をデジタル庁設立記念シンポジウムに出して実際にオンラインでプレーをしたところ、アメリカやロシアをはじめとする海外を含め、9万4000ビューという驚異的な反応があったそうだ。
「近代オリンピックを始める時に、創立者のクーベルタン男爵が『より速く、より高く、より強く』と言ったのは有名ですが、今はそれだけでないと思うんです。例えば、『スピリットオーバーフロー』のようにより広くとか、あるいはより面白くとか、いろんな軸があっていい。その軸が公平でみんなが納得のいくものだったら、テクノロジーを使ってもいいし、どんなスポーツでもいいと僕は思うんです」(中村氏)
超人スポーツにはこうしたバーチャル空間でプレーするeスポーツ的な競技もあるが、リアルなフィールドでプレーするものもあり、今後のさらなる広がりと可能性を予感させる。