一方、企業の倫理に関して消費者の目も厳しくなっており、これからの企業の成長においてAI倫理は「あればよいもの」から「必須のもの」になります。
コロナで変わった消費者の行動や意識
日本経済団体連合会が昨年9月に発表した報告書「コロナ禍を受けた消費者の行動や意識の変化と企業の取組み ~サステナブルな消費の推進に向けて~」では、1つの課題として「社会課題に対する意識の高まりを受けたサステナブルな消費の推進」を挙げています。市民レベルでSDGsの意識も浸透し、経済活動の中でもESG投資が活発になっており、企業に対し「正しいこと」を行うことを求める声が高まっています。実際、現在の消費者の75%が、倫理に反する企業からは製品を買わない、サービスを利用しないと回答しているというレポートもあります。
出典:Salesforce Ethical Leadership and Business report
昨年4月に筆者が連載した記事で、2021年は「AIや、AIに関わる開発者や研究者に突きつけられるテーマは、倫理観や社会的責任へとシフトしていこうとしています。つまり『責任あるAI(Responsible AI)』が問われる1年となります」と述べました。その後、それを裏付ける報道がありました。
昨年9月、ロイター通信によると、米グーグルのクラウド部門は一昨年9月に金融機関から融資審査AIのサービス提供を打診されたとのことでしたが、何週間もの協議の結果、提供を却下したという報道がありました。
欧州や米国では日本よりも先行して、AIのリスク、特に人種や性別など基本的人権にかかわる部分でAIにより差別が助長されることへの懸念が高まっていました。グーグルのこの決断は、そういったAIのリスクを重く見た判断だったと思われます。しかし一方で、同社がAIを活用して収益をあげていることもまた事実です。重要なことは、「責任あるAI」をどのように実現し、企業の成長につなげていくのか、ということなのです。
アクセンチュアでは「責任あるAI」は、クライアント企業の今後のイノベーションを支援する方法において中核をなしていると考えています。AI技術は急速に進歩を続けており、目まぐるしく変化する事業環境の中でのAI活用において、スピードと責任は相互に排他的であるとは考えていません。
日本においてはDX人材の育成は急務とされており、多くの企業でAIをはじめとするIT研修などを通して従業員のリスキルが進んでいます。ただし、この「責任あるAI」という、新しい、しかし極めて重要な概念についてはまだまだ理解が進んでいないと言わざるを得ません。
AIについて、技術的楽観主義(Techno-Optimism)に基づくビジネス展開の構想だけでなく、その裏に潜む潜在的な落とし穴の両方を認識することが重要です。これはAIの取り扱いについて「何を知らないのか」を認識することであり、そのうえでAIを「責任あるAI」にバージョンアップさせることで、自信をもってビジネス戦略に組み込むことが可能になるのです。
●ガバナンスの必要性
AIを効果的に全社展開するためには、AIの倫理的フレームワークが必要。77%の日本の経営者は、AIを大規模に展開しなければ、5年後には著しい業績低下に直面すると考えている1*出典:アクセンチュア/1*アクセンチュア AI:Build to Scale(ビジネス全体でAIを活用する)より/2*アクセンチュア 責任あるAIガバナンスハンドブックより