米大学の授業料、数十年ぶりに実質減の理由

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米国の大学の授業料はこのほど、過去30年以上の中で初めてインフレ率を下回るペースで上昇していることが明らかになった。

米国の教育系非営利団体(NPO)カレッジ・ボード(College Board)が最近公表したデータによると、4年制公立大学では2020~21年度と2021~22年度の間に名目の授業料が1.6%上昇し、私立の非営利校では2.1%上昇したことが示された。同時期のインフレは5.3%だったことから、大学の授業料は実質ベースで減少したことになる。

カレッジ・ボードのデータは学資援助を加味しない、いわゆる「定価」を示すものだ。しかし、助成金や奨学金の平均額は過去1年間変わっていないため、公式に提示されている授業料の減少は、助成金を加味後の正味の授業料の減少を意味している。つまり、学生らが抱える授業料の負担は一時軽減されたと言える。

米国では、提示されている授業料を大学が上げる場合、それと同時に学資援助を少し増やすケースが多い。つまり、大学の純粋なコスト増は通常、公開されている授業料の上昇と比べて緩やかだ。

学資援助などを加味した大学の最終的なコストは学生の資金管理に最も直接的な影響を与えるが、大学教育の資金繰りについて調べる人が最初に目にする数字は公式な授業料である場合が多い。そのため提示されている授業料は、大学のコストに関する人々の認識を形成することとなる。大学が公式な授業料を削減する場合、それは学生の誘致を図っていることを示している。

この論理を踏まえると、授業料が減少している理由が高等教育への需要減で説明できることは明らかだ。学位を求める人が減り、大学は学生を取り戻そうと授業料を削減しているのだ。

学士プログラムへの入学は、2019年から21年の間に3.2%減少した。減少幅は、学生の選抜がそれほど厳しくない大学や2年制大学でより大きかった。こうした教育機関に入学する人は高等教育システムとのつながりが薄い傾向にあり、大学入学は決して自明ではなく、ポストコロナの時代になって大学に通う人が減っている。

高等教育への需要が下がっている理由


新型コロナウイルス感染症の流行がその答えの一つかもしれない。まるで修道院のようなキャンパス生活や、さらには完全オンラインの授業のために授業料を全額払いたい学生は少ない。しかし、大学が完全に再開する中でも入学者数は減少を続けている。

より説得力のある理由として、大学に代わる解決策の魅力が増していることがある。

大学に対する主な代替手段は労働だ。米国では現在求人が多く、米労働省労働統計局(BLS)によると失業者1人に対し1.4の求人があり、ここ数十年で最高水準だ。労働力不足は経済に多くの影響を与えているが、これは(少なくとも短期的には)大学の学位を持たない人にとって朗報だ。
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翻訳・編集=出田静

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