出店に際して送られてきたプレスリリースには「伝説的サーフショップCGS(カリフォルニアジェネラルストア)の商標権を承継」とあった。
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この一文から浮かんだ疑問はふたつ。まず、何が伝説的なのかということ。そして、なぜ都会に多くの店舗を展開するセレクトショップが、そのサーフショップを事業承継するのかということだった。
「カリフォルニア」はなぜ伝説になったのか?
ユナイテッドアローズが事業承継した「カリフォルニア」は、1997年、故人の石田道朗氏がJR藤沢駅と鵠沼海岸の間にある住宅地にオープンした。以降、2000年代に入るに従い“伝説化”が強まっていくのだが、そこには当時の時代背景が深く関与している。
’80年代以降、’00年代に入っても日本のサーフシーンにおいてはショートボード全盛、コンペティション全盛の時代が続いていた。サーフィンのメインストリームは“競技”であり、そのような時代の中で注目を集めたのは、強く格好いいサーファーや最新テクニック、最先端スペックのギアだった。
しかし石田氏による「カリフォルニア」は既存の流れに迎合しなかった。サーフィンはショートボードだけでも海の中で波に乗るだけでもないことを、米国西海岸のサンディエゴが輩出したひとりのサーファーを中心に伝えていった。そのサーファーこそが、ジョエル・チューダーだ。
カリスマと謳われたジョエルは’98年と’04年に20代でロングボードの世界王者となり脚光を浴びた人物。軽快なステップワークと、ブロンドの髪をなびかせ優雅に波とシンクロしていくスタイルで、それまで長い時間をかけて刷り込まれた“ロングボードは機敏な動きがしづらくなったおじさんが乗るモノ”というイメージを一蹴。「格好いいから始めたい」という若者を世界中に生み出した。
端的に言うなら、ジョエルは世界を変えたのだ。そして「カリフォルニア」は、サーフィンの新しいスタンダードにリアルタイムで触れられる国内の拠点となった。
新しいスタンダードとはビーチカルチャーと言っていい。ジョエルはコンペ仕様のロングボード以外に、シングルフィン、ツインフィン、ミッドレングスなどを自ら乗り、デザインも考案してサーフボードに多様性をもたらした。海のムードを纏ったアートやフィルムも紹介していった。
そのサーフィン観は求道者のごとく研鑽を積み、高難度な技を可能にするギアを追求する方向とは異なるもの。サーフィンをしない人でも海を楽しめる豊かさがあった。