広報戦略の大失敗と言えるこの事態の中でも最悪なのは、コーチが矛盾したメッセージを発していた点だ。コーチは、自社のウェブサイトで顧客に対し、自社製品を修理・再生して長く使うように促している。その一方で、店舗では店員が、返却された商品を意図的に売り物にならない状態にすることを容認していたようだ。
現在の市場では、消費者とのあいだで交わした約束を確実に実行することが、企業にとって非常に重要になっている。
当然ながら、ソーシャルメディアに上記のような投稿が掲載されたことを受けて、コーチはCNNの取材に対し「店舗に返却された商品の破壊処分を『中止』し、今後は『余剰在庫、あるいは傷が付いた商品を、責任ある形でリパーパス(転用)、リサイクル、リユースする』つもりだ」と釈明した。
とはいえ、自らのイメージを守るためには、ブランドは一瞬たりとも注意を怠ってはならない。たった1本のTikTok動画が拡散されるだけで、数年、場合によっては数十年をかけて築き上げてきたコーポレート・シチズンシップ(企業の社会的貢献)の実績が無に帰すおそれもあるからだ。
コーチが顧客の声(VOC)分析を活用していたなら、自社のリスク特性を、より的確に把握できていたかもしれない。
消費者の声を直接聞いていれば、ごみ問題やサステナビリティについて非常に意識が高い人々の存在を意識し、「コーチは、難のある商品をより妥当な形で活用するべきだ」という提言が耳に入っていた可能性もあった。そうしていれば、コーチはネガティブな報道を回避し、逆に、ひどく傷んだ商品をリサイクル、アップサイクル、修理する自らの取り組みについてポジティブな情報を発信することもできたはずだ。
現代のブランドは、修復不可能なイメージダウンを避けるために、自社のリスク特性を把握することが不可欠だ。顧客の声に耳を傾けていれば、このような事態が起きるリスクについて、コーチやバーバリーも警告を受け取っていたはずだ。
Z世代は力を増しており、2030年までには経済の中核を担う存在になると予測される。そんな中で、今後はすべてのブランドにとって、収益に関する目標を、透明性のある行動規範とうまく融合させることが、さらに重要となるはずだ。