ビジネス

2021.11.18 07:30

「起業ストーリー」こそ、スタートアップの最強の武器


「もう、この人のもとでは働きたくない」。何人もの部下がそう言っていると伝わってきた。リクルートは、部下や同僚からの声が伝えられる「360度評価」が採用されていたため、最低評価となってしまう。
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しかし、そんな苦境を相談しようにも、世代の異なる部長たちは「今の時代の現場」を肌身で理解できておらず、的確なアドバイスがもらえなかった。結果的に精神面の調子を崩し、休職に追い込まれてしまった。

「自分と同じような想いで苦しむ管理職やメンバーを生み出したくはない」。その想いが、職場内コミュニケーションを支援するKAKEAIの創業につながった。

創業直後からPRで成功しているスタートアップ企業に共通する特徴として、起業家自身のストーリーを打ち出していることが挙げられる。起業家の事業に賭ける真摯な想いが広がって、多くの人を味方に変えることができるからだ。本田社長は、その効果を次のように語る。
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「一般的に創業直後のスタートアップは、信用度が十分ではありません。当社の場合は、こうした起業ストーリーを発信したことが、顧客獲得や人材採用の場面での説得材料になりました」。起業ストーリーの発信は、起業家だけに許された「最強の武器」なのだ。

プレスリリースからの問い合わせが急増


次に取り組んだのが、プレスリリースだ。新機能追加や表彰実績といった一般的な内容に加え、「限定100社トライアルキャンペーン」や「テレワーク下の1on1進化事例」と題した成功事例集など、販促に直結する内容も発信してきた。

リリース作成は広報や製品の担当者などに任せるのが一般的だが、本田社長は自分自身で書くことにこだわり、配信代行サービスを用いて毎週のように送り続けている。

「前に進み続けている会社であることを世の中に伝えたい。そのために何通も出しました。経営者自身の考えや思いを伝えることは、自分にしかできない仕事です」

また、細かな言葉遣いにもこだわる。

「例えばサービスを説明する文言で、まずメディア向けに『上司と部下のコミュニケーション』と書いたとします。ただ、私たちサービスの導入を決済する人事部門の担当者には『マネジメント』と書いた方が伝わるので、書き分けるのです。そうした単語のひとつひとつを自分で考えながら、書いています」

多くの場合、プレスリリースはその名の通り、プレス(=メディア)向けに書かれるものだ。実際、配信したリリースを目にとめたビジネス誌などでも何度か取り上げられた。しかし、成果はそれだけではない。

「メディアで取り上げられたいという気持ちは、もちろん強くあります。ですが、インターネット上で配信するプレスリリースなので、『これから出会う顧客』に向けたものであることも意識して書いています」

こうした発信の積み重ねで、特にリモートワークの拡大でコミュニケーションが難しくなったコロナ禍以降ではプレスリリースから導入の問い合わせが来るケースが急激に増えたという。

「プレスリリース経由の問い合わせというのは、その企業が検索して当社を見つけ出してくれたケースが多い。強い問題意識を持っているため、成約率も極めて高くなっています」
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文=下矢一良 編集=田中友梨

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