一方、イナモトは社内と社外に次ぐ、“文化のDX”という第3の要素を指摘する。具体例として、今夏に一時帰国した際の入国審査で、空港職員がコロナ対策の確認項目を、用紙に一つひとつハンコを押しながら確認していたことを挙げた。
「笑ってしまうほどの、『ザ・ジャパニーズ』。コロナ対策アプリのダウンロードや起動できるかを確認して、紙にハンコを押すアナログさ。『効率は悪いが、今までやってきたことだから』という、従来の文化が変わっていない象徴だと感じた」
楠木は、イナモトの語った「効率は悪いが、今までやってきたこと」を“因習”と表現。「ただ、それらの因習はコロナによって、『全部気のせいだった』とわかった。因習は合理性がないため、気づけば変えるのも早い」と、コロナ禍の現在は変化のチャンスだとも捉えた。
因習を打破するには、「踏み切れるかどうか」という経営者の決断次第と言える。「商売として儲かったり、スピードが上がったり、コストが低くなるなど、それらは仕事を通してわかる。社員が実感できる例をいかに経営者はつくれるか」と楠木。ベースとなる企業文化が変われば、社内外のDXも一気通貫に変わる可能性もあるとした。
また、楠木は「コロナはリアルに対する、オンラインというオルタナティブを与えてくれた。オルタナティブがあると、改めてリアルのよさもわかる」と言う。DXが浸透するほど、DXに当てはまらないアナログの価値も浮き彫りになり、リソースをデジタルとアナログにいかに振りわけていくかで、経営者の力量が問われると見る。
問われる経営者の決断力
セッションの終盤、両者が「経営者の持つべき視点とDX成功のカギ」と問われた際、イナモトは「コロナによってリーダーシップのいい面と悪い面が浮き彫りになっただけに、経営者には本質的なリーダーシップが必要。DXでも、やはり文化の改革が一番のカギ。何が形式で何が本質かを見極め、その上で改革を実行する覚悟が最も重要になってくる」と語った。
楠木もまた、「これからは、『これが正解だ』というものはない」と、不確実性の高まる現代におけるリーダーの重要性を説いた。
図らずも、ともに経営者のリーダーシップに触れた両者。最後は楠木の「決断とは、何かを断つということ。何事にも良い面がある中で、何を捨てるか。断つと決められることに決断の意味がある」という言葉で、セッションは締めくくられた。
コロナで企業の実力がむき出しになる現代。下した決断をいかに正解に導いていけるかも、経営者の力量として問われそうだ。