今年、各分野に精通した専門家や業界オーソリティ、過去受賞者で構成されるアドバイザリーボードと編集部で審査を行い、エンタテインメント部門の受賞者として選出されたのが、東田直樹だ。
重度自閉症者の東田直樹は、「会話ができない」と紹介される。だが、これは正確ではない。人の話を聞き、決して流ちょうではないものの、自ら話もする。発話は、文字盤に並んだアルファベットを1文字ずつ指で指す「文字盤ポインティング」を利用し、これで講演も行う。
時間をかけて言葉を紡ぐ姿は、文章を生み出す作家の孤独な作業を思い起こさせる。執筆は、小学生のころにグリム童話賞を受けるほど、早熟でもあり達者でもあった。その基盤は、5歳の息子の言語能力に気づいた両親らによる独自の教育だ。
13歳のときに書いたエッセー『自閉症の僕が跳びはねる理由』は、2013年に英訳され、34カ国で計117万部という大ベストセラーに。20年にはイギリスで映画化もされた。東田はパソコンでの執筆を精力的に続けており、詩集や絵本を含む著書は20冊を超える。“閉じた”印象のある自閉症の世界を言葉で外に開き、世の理解を深めてきたこと。それが東田の第一の功績であるなら、もうひとつ、彼には大きな役割がある。
独自の視座から社会を見つめ、これまでにない視野を読者に与えることだ。アドバイザーとして東田を推薦した、ヘラルボニー共同創業者の松田崇弥・文登が言うように、彼の活動は、「障がいのある人の親やきょうだい、ひいては世界に対して希望を与えている」。
──海外でも広く作品が読まれていることをどう思う?
文化や宗教、生活様式が違う人たちにも僕の思いが届いていることに驚いています。言葉はときどき、誰かの心を傷つけます。同時に、人の心を救うこともあります。だから僕は、言葉に自分の気持ちや思いを込めて、人に生きる勇気や優しさを届けられたらと願っています。
──10年以内に実現したい目標は?
自分にしか書けないような物語を書いてみたい。僕は、人間のもつ生きる力に関心があるので、それをテーマに文章をつづってみたいと思っています。また、社会についていえば、差別や偏見がなくなることを祈っています。
──1億円あったら何に使う?
自閉症の人も気軽に入ることのできる、静かにしなくてもかまわない図書館をつくりたいです。
──首相になったら何をする?
子どもたちも夢を持って生きることができるような政策を考えます。未来は突然にやってくるものではなく、今日という日の積み重ねでできています。いまの子どもが幸せなら、未来の大人もきっと幸せになるはずです。
ひがしだ・なおき◎1992年、千葉県生まれ。『自閉症の僕が跳びはねる理由』は各国でベストセラーに。その他の著書に、『世界は思考で変えられる』、『自閉症の僕が生きていく風景』など。