わたしのJAXA訪問記。道具を作ることで、人はまだ見ぬ世界へ足を伸ばす

三澤拡 (JAXA) 、マイク・エーブルソン (ポスタルコ デザイナー) 、丸山敬貴 (JAXA) ISSの模型内で無重力のポーズ


心をハッピーにするものづくり


若田飛行士が履いた靴。足袋の形
若田光一宇宙飛行士が実際に使用した運動靴。足のグリップ力を鍛えるために親指部分が分かれている。

どうやら宇宙の服づくりは、思っていたほど地球と異なるわけではなさそうだ。「でも、そうすると宇宙らしさが出ないですよね」とマイクさん。

「機能だけを考えれば地球で使っているもので間に合うかもしれないけれど、船内服が普通の作業着みたいだと、ちょっと楽しさが足りない」。

たしかに、服とは単に機能を満たすだけではなく、着る人の気持ちを上げ、アイデンティティを表現するものでもある。マイクさんは、どんな船内服があったらいいと思いますか?

「あったらおもしろいと思うのは、日本らしさのある船内服。和紙のような素材や手ぬぐいのようなテキスタイルなど、ちょっとしたところに日本らしさを取り入れても良いのではないでしょうか。

思い出すのは映画『スター・ウォーズ』に登場するキャラクター、ルーク・スカイウォーカーの服。どこか柔道着のようなんです。当時の“未来の服”が日本風だったというのはすごくおもしろいですよね。

これはただ見た目が日本的であるだけでなく、機能面でも意味があると思います。柔道着はいろんな体型の人が着ることができる。

宇宙で姿勢が変わるという話がありましたけど、浴衣のような服であれば、その日の身体の状態に合わせて調整することができます。無重力空間で浴衣を着たらめちゃくちゃになってしまうかもしれないけど(笑)」。

靴下の写真
飛行士は足をフックのように使って身体を固定する。そのため靴下は、甲の部分が分厚くなっている。

実際に米SpaceX社は、宇宙船クルードラゴンに搭乗用の宇宙服をつくる際に、映画『アベンジャーズ』の衣装デザイナーを起用して、機能だけでなくデザイン面でも革新的な服を手がけている。

「JAXAで船内服をつくる際にもそうした視点を取り入れて、日本らしさを打ち出していけたらおもしろいと思いました」と、マイクさんの提案を聞いた丸山は答える。

「服に限らず、パッケージに家族や開発者のメッセージを書ける欄を設けるなど、飛行士たちの心も楽しくなるような製品をつくろう、というアイデアはすでに出てきています。機能はもちろん大切ですが、飛行士たちの気持ちもハッピーにできるような製品をどんどんつくっていきたいですね」。

インタビューの終わりに今回の取材の感想をマイクさんに尋ねてみると、「宇宙でも、かなり人間的な生活が残るんですね。船内服のアイデアも積極的に募集していることも初めて知りました」と答えてくれた。

「飛行士たちがどんな生活をして、何を必要としているのか。飛行士たちを、オリンピック選手のようなパフォーマーとしてではなく、地上の生活者である僕らと同じ『ひとりの人間』として捉えて、宇宙での問題を解決できるような服の提案をいつかしてみたいです」。


●Profile


対話中の3名の様子
[左]MIKE Abelson
『ポスタルコ』デザイナーマイク・エーブルソン
ロサンゼルス出身。2000年にパートナーの友理さんとポスタルコを創業し、01年から東京を拠点に活動中。常に身の回りのことについて疑問をもつことから新しい製品をつくっている。最近の関心事は身体と菌。

[中]三澤拡
JAXA有人宇宙技術部門 宇宙飛行士運用技術ユニット 宇宙飛行士健康管理グループ
山形県出身。宇宙食、生活用品担当として様々な民間企業と調整しながら、調達対応や広報業務等を行っている。最近は運動不足気味。宇宙飛行士の運動服なども扱う者として、最低限の運動は心掛けたいところ。

[右]丸山敬貴
JAXA有人宇宙技術部門 宇宙飛行士運用技術ユニット 宇宙飛行士健康管理グループ
大阪府出身。主に生活用品開発企業との調整等を行っている。趣味はサーフィン、ダイビング、サッカー。身体を動かすことが大好き。


JAXA’s N0.85より転載。
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取材・文=宮本裕人 写真=上澤友香

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