わたしのJAXA訪問記。道具を作ることで、人はまだ見ぬ世界へ足を伸ばす

三澤拡 (JAXA) 、マイク・エーブルソン (ポスタルコ デザイナー) 、丸山敬貴 (JAXA) ISSの模型内で無重力のポーズ


宇宙でいいものは、地球でもいいもの


取材当日、健康管理グループの三澤拡と丸山敬貴は両手いっぱいに船内服を抱えて現れた。ズボンにフリース、運動靴に靴下まで。無重力空間で使う服は、地上で使うものとは少し変わった特徴を備えている。

JAXAはさまざまな企業と連携しており、飛行士が実際に宇宙でどんな生活をしているのか、どんなことに困っているのかをリサーチし企業と共有することで、企業にこれらのプロダクトを開発してもらえるようにしているのだ。

モノも身体も固定しないと浮遊してしまう、無重力空間。そのため例えば、ズボンについたポケットは面ファスナー(マジックテープ)で着脱できるようになっており、ペンなどの小物を入れて宇宙船内の壁に貼り付けられるようになっている。


野口聡一宇宙飛行士が実際に着用したズボン。面ファスナー付きのポケットは着脱して宇宙船内に貼ることができる。

運動靴は片手で手すりなどに掴まりながらもう片方の手だけで紐が結べるものに。靴下は船内に足をひっかけて身体を支えられるように、甲のほうがより生地が分厚くなっている。また無重力空間では常に少し前かがみの姿勢になるため、シャツは背中側が少し長くなっている、など。

野口飛行士
「きぼう」船内にて作業を行う野口聡一宇宙飛行士。面ファスナーによって、タブレット端末がズボンに張り付いている。(c)JAXA/NASA

「でも、実は違いはこれくらいで、ファスナーや丈の長さといった実務的なものを除けば、宇宙と地上の服は基本的には変わらないんです」と三澤。

「宇宙でいいものは地上でもいいですし、地上でいいものは宇宙でもいい。なので、すでに地上で素晴らしいものをつくっている民間企業の知恵を借りながら、いいものを宇宙に届けたい、というのがわれわれの考え方ですね」と続ける。宇宙での生活のために開発されたプロダクトは、実際に地上でも役に立っている。

ISSにはシャワーがないため、服には高い速乾性や消臭性が求められるが、それらの機能は地上の服をつくる際にも応用できる。飛行士たちは限られた服を着回すため長持ちするものでなければいけないが、それは長く使い続けられる服づくりにつながるだろう。

また服以外にも健康管理グループが手がけるアイテムは「地球でも応用されうる」と丸山。

「宇宙で身体を拭くためのウェットシートには引火の恐れのないアルコールフリーのものが使われていますが、それは体質や宗教上の理由でアルコールを肌に触れさせたくない人のためにもなります。宇宙だけでなく地上にも発展できるようなものをつくろう、とさまざまな企業と協働しています」。

「宇宙での問題は地球とはまったく別物だと思っていたけれど、僕たちみんなの問題と近いことがわかってびっくりしました」と、ふたりの話を聞いたマイクさんは言う。

「宇宙での問題を解決することが、地球での問題を解決することにもつながると思うと、とても可能性がありますよね」。
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取材・文=宮本裕人 写真=上澤友香

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