今後の行方を予想する上で、先に発生したウッドショックの流れを見てみよう。
北米産の木材価格が急騰する「ウッドショック」は、コロナ禍で米国の金融緩和によって、住宅ローン金利が下がり、住宅着工が増えたことが原因だ。米住宅価格は、全米の各都市で上昇を続けている。
しかし、木材価格は21年1月をピークにして上昇が頭打ちになった。コスト上昇によって、新築の購入が手控えられるようになったことが価格抑制に寄与したのである。
市況が上がりすぎると、今度は事業者の採算が悪化して、需要を減少させる。木材価格が大きくは下落していないが、急上昇の局面は去ったとみられる。
ピークは過ぎたか
非鉄・金属の市況でも同じことが起きるかもしれない。実際、図表2では、21年5月頃を境に価格上昇は一服していることが分かる。
日本の企業物価からもやや落ち着き始めた様子がうかがえる。
21年4~6月期の決算発表では、素材コストの上昇による収益悪化の懸念が聞かれたが、ほぼ連動して動く米国の消費者物価と日本の企業物価を見ると、21年8月に物価上昇ペースが頭打ちとなり、前月比ではほとんど伸びなくなっている。
筆者作成(出所=日本銀行「企業物価指数」、米労働省「消費者物価指数」)
FRBの金融引き締めが始まれば、投機的な動きは抑制され、21年前半のような急上昇が再現されることは考えにくい。
しかし、実体経済は良くなっていくので、素材コストが大きく反落する訳ではないだろう。引き続き、日本企業は価格転嫁を地道に進めていかざるを得ない。
熊野英生(くまの・ひでお)◎横浜国立大学経済学部卒。1990年4月日本銀行入行。同行調査統計局、情報サービス局を経て、00年7月退職。同年8月より、第一生命経済研究所へ入社。11年4月から現職。著書「バブルは別の顔をしてやってくる(日本経済新聞出版社)」、「なぜ日本の会社は生産性が低いのか?(文春新書)」など。 専門は、金融政策、財政政策、金融市場、経済統計。