値上がりは、銅やアルミ、鉄でみられ、20年後半から上昇し、21年1~5月には急加速した。こうした素材・原材料の価格高騰は「メタルショック」と呼ばれる。
日銀が作成する「企業物価指数」を参照すると、今年8月の素材原料の輸入価格は、前年同月比で69.9%の上昇した(図表1)。
筆者作成(出所=日本銀行「企業物価指数」)
前年がマイナスだったこともあるが14年以来の高水準で、中間財は9.9%、最終財は2.6%と価格転嫁が進む。上昇率に差があるのは、各流通段階で十分に価格転嫁されず、変動利益率(粗利率)が圧縮されているためだ。
もちろん、素材産業は、時間をかけて値上げを取引先に申請し、利ざやの回復に努めるので、利益圧縮はじきに取り戻すことができる。とはいえ、輸入品が対前年で1.7倍(69.9%)もの上昇になっている状況では、そのコストアップを一気に価格転嫁することは不可能である。
素材メーカーの取引先は、採算悪化を招く、1.7倍の値上げなど到底受け入れられないからだ。
ある金属製品メーカーの経営者は「輸出価格はこの強烈なコスト上昇を何度かに分けて転嫁できるが、国内製品は値上げを申し入れると顧客が逃げてしまうから無理だ」と話した。
国内製品は、価格転嫁ができない分、固定費の大きな割合を占める人件費削減、つまり春先の賃上げを極力抑制していくことになる。
脱炭素も押し上げ要因
素材価格高騰には2つの要因がある。一つは国際商品市況への過剰なドル資金の流入だ。実体経済の急回復と金融緩和の相乗効果が物価を押し上げている。
コロナ禍では、まず中国経済が落ち込み、メーカーも商社も在庫を減らしていた。しかし20年夏頃には回復し、需要の盛り上がりから素材の需給を逼迫させた。コンテナ不足や港湾施設の労働者が足りないという事情も、素材価格の上乗せに響いたとされる。
筆者作成(出所=日本銀行「企業物価指数」)
さらに、アフターコロナの脱炭素も、銅価格の押し上げ要因だ。EV車の銅使用量は、ガソリン車1台の3~4倍。「銅は将来は原油に代わる基礎素材となる」と主張する人もいるほど。
半導体の配線、コイルなど銅のニーズが高まると同時に、蓄電池用のニッケルや鉛の使用も増えるため、価格がいつさらに上昇してもおかしくはない。