社会(S)では「2030年度までに、就業までに掛かる時間を2021年度比で半分に短縮することを目指す」「2021年度から2030年度までに、雇用市場にある障壁を低減することで、累計3000万人の就業を支援する」の2点。これに、従業員へのコミットメントとして「2030年度までに、当社グループ全体における上級管理職・管理職・従業員それぞれにおける女性比率を約50%にすることを目指す」を加えた。
そしてガバナンス(G)では「2030年度までに、当社の取締役及び監査役全体の女性比率を約50%にすべく、定時株主総会の選任議案を上程することを目指す」の1つだ。
これらの数値目標は、年に2回以上開く「サステナビリティ委員会」(取締役会の諮問委員会)に外部の専門家を招いてグループとしての課題を精査しながら、峰岸真澄会長、出木場久征社長兼CEOらを含めた取締役のほかに、各ビジネスユニットのトップを参加させて議論したという。
「2030年度という時間軸を区切って、すべてのゴール設定を定量化した点がポイントです。『なんとなく、これをやろう』ではなく、実際に現場でどこまでオペレーションにまで落とし込めるのかも膝詰めで事業のトップと議論を重ねました。そこまでやって、達成しなければという適切なプレッシャーがないと、本業のなかでサステナビリティを磨いていくことはできないと思うんですよね」
取締役側から目標を提案しても現場から押し戻されることもあった。ただ、実現できない約束はしたくない。「達成が簡単なものはひとつとしてありません。でも、現場でみんなの行動が変わって、サービスが進化していかないと、提供する価値は変わらないと思うのです」と、グループの“変身”に意気込みをみせる。
本業の真ん中でチャレンジして世の中を変える
実際に、この10年でリクルートグループは大きく変化と成長を遂げてきた。2020年度の海外売上高比率は約50%だ。「でも、2011年はわずか4%未満でした」と瀬名波。
「成長するために海外に4000億~5000億円を投資すると明言した12年は、『これをやれば海外で約5割を稼げる』とは考えていなかったと思います。でも『HRマッチングで世界一に』とチャレンジし続けてきた結果、海外売上高が約5割に達したのです」。サステナビリティについても同様に、「いまできることだけでターゲットを設定すると、そのレベルか、それ以下でしか達成できない」と考え、野心的な目標を設定したのだという。
コミットメントのなかで注目すべきは、リクルートにとっての本流であり本業である人材領域で、30年度に「就業までに掛かる時間を2021年度比で半分に短縮する」との目標だろう。瀬名波は「(先進国が多い)OECD(経済協力開発機構)の加盟国でも、就業できない期間が3カ月になると、約40%の人が貧困に陥るというデータがあります」と説明する。
パンデミックやテロ、そして災害なども多発する世界で、職を失ってしまった人が早期に新たな就職先を見つけて貧困から離れられることは、SDGsでは最重要の「解決すべき課題」と言っていい。単に社会貢献という枠組みでなく、リクルートが本業で提供できる価値としても極めて大きい。
3カ月間収入が無いと貧困に陥るリスクのある人の世界と日本の割合。(OECD「How’s Life? 2020」より)また、日本における幸福度指標の多くが、非常に低いか、もしくはデータすらないという状況にある。収入=雇用は、幸福に生きるためのファーストステップだ。