では、持続可能な組織をつくるためには、何を大切にしているのだろうか。山下は、制度づくりはもちろんのこと、「対話」する機会も重要だと言う。
例えば、20次中計の目玉施策のひとつである「社内カンパニー制」の導入。パンデミックの影響もあり、2023年度までの導入計画を前倒しして2021年4月から実施している。事業の可視化と重点化によって収益性の向上を狙うことができ、権限を各ビジネスユニットに委譲することでスピーディーな業務執行を図ることができる仕組みだ。
導入後には、全社員向けに動画で説明の機会を設け、希望者を募り社員数人のリモートラウンドテーブルも実施。ただ、そこでは「私の業務は何にも変わっていません」という意見もあった。
「現場の社員までは影響が及んでいないことを実感し、ショックでした。変革までの道のりはまだまだこれからですね」と山下は言う。
リモートラウンドテーブルで話す山下/リコー提供
新入社員に対しては、コロナ禍で「リモート入社式」を行う企業も多い中で、リコーでは2020年から感染対策をとった上で社長が1人ずつに会う「個別入社式」を実施している。2021年は、3時間半かけて82人の社員一人ひとりに声を掛けた。ほかにも、全社員向けに月1回のビデオメッセージを放映したり、社内SNS「Yammer」を活用したりしている。
従業員向けのビデオメッセージ/リコー提供
山下が対話にこれほどまで力を注ぐのは、「情報が階層順に落ちていく組織は脆弱性をはらんでいる」と考えるからだ。
「自分たちとお客さまの意見を集めて新しい価値を創造していく今の時代、『誰かが決めたことにみんなが従う』という組織は弱いんです。また、役職順に情報を多く持っている組織は、正しい姿とはいえません。お客さまに一番近い社員が最も情報が少ないということですからね」
山下が理想とするリコーの姿は、社員全員が同時にトップの話を聞いて、ポジションに関係なく「自社や自分自身がステークホルダーにとってどうあるべきか」を考えることができる組織だ。
株主に対しても、「コミュニケーションの場から逃げない」ことを信条にする。2021年4月には、株主の意見を取り入れながら検討・試行してきたROICによる事業管理を導入。資本収益性を意識した体質づくりを進めている。
株主や投資家と直接話す機会も重視する。「株主や投資家の方と話すと、社内ではなかなか出ない目線からの議論が出てきます。これから我々がデジタルサービスの会社へと転換を図るにあたって、どういった指標を重視すればいいのかなどを投資家の方と議論できることは、非常に学び多いことだと感じています」