「私たちは祖先からこの地球を受け継いだのではない、未来の子どもたちから預かっているのです」
この言葉は、山下が2018年にニューヨークで開かれた「Climate Week NYC」(国連総会と並行して開催し、企業・政府・市民社会の国際的なリーダーが世界的な気候変動対策を紹介するサミット)で、基調講演を行った際に引用したネイティブアメリカンの格言だ。
「将来の子どもたちから預かっていると考えれば、『消費しつくしても良いや』ではなく、『今以上にきれいにして返したいな』と思いますよね。それが我々の責任・義務でもあり、事業活動においても外せない考え方だと思っています」
山下の“全方位的なアプローチ”には、海外赴任時の経験が大きく影響を与えている。2007年にアメリカの生産会社社長に任命され渡米した山下は、カリフォルニア工場の約1000人とジョージア工場の約400人、計1400人規模の生産工場を任された。
赴任初日、工場内に「セーフティファースト(安全第一)」という標語が日本語や英語のみならず、ベトナム語やスペイン語まで貼ってあるのを目にし、「なぜこんなにたくさん貼ってあるのか」と驚いた。
疑問に思い尋ねると、「工場には26人種・民族もいるからだ」という。さらに、当時の工場では70歳以上の社員が計30人ほど在籍していて、定年制もなかった。「働く意欲とアウトプットを出す能力があれば年齢は関係ない」というスタンスで、もちろん女性もたくさんいた。
「年齢や民族・人種、宗教、障害の有無は問わないというダイバーシティの重要性は前々から意識はしていましたが、この経験でかなり自分ごとになりました」
帰国後、総合経営企画室長に就任すると、ダイバーシティ推進に力を入れた。例えば、女性社員の産休後の評価低迷を防ぐために部内の人事評価制度の見直しなどを行った。「社内では『そんな細かいことまで言うんですか』と言われましたが、細かいことでも実行しないと意味がないと考えました」
また、RE100に参画するときも「そんなことを宣言して大丈夫ですか」「本当にできるんですか」と多くの社員に声をかけられたというが、トップとしての山下の考えは一貫している。「ゴールを明確にするのが社長の大きな役割です。できるかできないかではなく『これをやるんだ』という経営の軸や、何を大事にしている会社なのかを公表する勇気が必要だと思っています」
結果的に社外からの反響も大きく、社会全体の動きの変化を感じたという。