チャンスを見つけて、そこから価値を生み出す人であれば、誰でもアントレプレナーと呼べる。あるものに対して、注ぎ込んだものよりも大きなものを得る人は、アントレプレナーだ。例えば、持ち家を改修したり、イーベイで何かを売ったり、慈善活動に対して何らかの価値があるものを寄付した人は、堂々とアントレプレナーを名乗れる。
ビジネス運営は一部の人にしかできないものであるかのように扱われることは、あまりにも多い。貸借対照表や損益計算書、シリーズAの資金調達ラウンド、レバレッジド・バイアウトなどを理解できる頭の良い人だけが、事業経営に向いているとされてしまう。
しかしビジネスとは本来、「誰かが買いたいものを売る」行為以上のものではない。もっとシンプルに言えば、誰かが欲するものを提供する行為だ。MBAを取得したり、ベンチャーキャピタルに勤務して何年も実績を積んだりする必要などない。アントレプレナーになるには、ただ自分からアントレプレナーを名乗り、日々価値を生み出していけばよいのだ。
米国では西部開拓時代、医者と言えば、単に「ドクター」を自称した人が多かった。当時は、正式な医学の学位を得るための時間も施設もなかった。病気の人の手当をいとわず、メスのような道具を持ち合わせてさえいれば、自分から医者を名乗ることができ、周囲もそれを受け入れた(当時は理髪師が外科医を兼ねていたというのも不思議ではない)。
起業家を表す「アントレプレナー」という言葉は、フランス語で「請け負う人」を意味する。元々はおそらく、演劇の世界で使われていたもので、現在では「プロデューサー」と呼ばれる職業を表す言葉とみられる。19世紀半ばに起きた産業革命の時代、この言葉が海峡を越えて英国まで広まり、現在の私たちが知る「起業家」という意味の表現になった。
アントレプレナーという言葉の使用は時代によって流行り廃りがあり、代わりにインベンター(発明家)やインベスター(投資家)、ベンチャーキャピタリスト、ファウンダー(創業者)などという言葉に取って代わられてきた。技術革新の進んだ今では、ユーチューブやティックトック上のインフルエンサーから、ウーバーのドライバー、イーベイの出品者まで、アントレプレナー精神はあらゆる場所に見られる。