第二に、旅行業界、飲食店業界の不振の原因は、消費者の行動変容(巣ごもり)であり、所得の下落が原因ではない。実際、昨年来、家計の預貯金が急増している。昨春のような、国民全員に10万円給付するという政策は、総需要刺激にならない。もし総需要を引き上げたいのであれば、給付金を使い切る可能性の高い低所得者や子育て世代に限った所得支援にすべきだ。
第三に、感染、自宅療養、重症者数の状況が改善して緊急事態宣言が終了したあと、Go Toキャンペーンを復活させるべきだろうか。これは不要だと私は考える。旅行に出かけたい、というたまりにたまった潜在需要と、積み上がった預貯金があるので、コロナさえ収束すれば、補助金を付けなくても十分に旅行や外食は回復する。
Go To再開のための予算は組み替えて、コロナ対策につぎ込むべきだ。例えば、臨時医療施設の設置と(医師会に頼らない)医師・看護師の確保、自宅療養者への十分な応援ができるように保健所への外部人材の派遣などが考えられる。
さて、自民党総裁選挙で、このような「規模」ではない論点が議論されるだろうか。注目したいと思う。(9月6日記)
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。