企業はどのように配慮すべきか
では、企業はどのようにサプライチェーンに配慮すれば良いのか。
笹谷によると、何よりも重要なのは、経営層が「経営マター」として捉え、積極的な推進姿勢を見せること。現場ではCSRやサステナビリティ部門が旗振り役となり、社内各部門のサプライチェーン・マネジメントを行う。その際の判断基準として参考になるのが、国際NGOなどが出している認証やSDGsのゴールだ。
笹谷は、特に調達先に注意すべき原材料として「石炭」「パームオイル」「レアメタル」「魚」などを挙げる。「環境への悪影響が課題になっているのが、CO2排出量が高い石炭や、東南アジアの熱帯雨林破壊にもつながっているパームオイル。レアメタルは、産地であるアフリカでの児童労働が問題になりました。魚は水産資源を守るために、魚獲量や環境への配慮が課題になっています」
コンゴ民主共和国の鉱山で働く少年(2005年)/ Getty Images
こうした調達時の課題に対しては、事前に認証マーク取得済のものを使用する、工場の労働環境をチェックする、などの「配慮」を行うだけで、社会的責任を果たすことができる。
「海外、特に発展途上国の工場であれば、商社に証明書を発行してもらったり、現地のエージェントにヒアリングを依頼したりすることがほとんどです。ただ、センシティブな地域の場合は、現地に視察訪問をしたほうが良いでしょう」(笹谷)
ただ、2020年にはこのような「サプライチェーンへの配慮」を重視する姿勢を見せていた大手アパレル企業が、中国の新疆ウイグル自治区での強制労働問題に揺れた。現在も、不買運動や刑事告発などが続いている。
笹谷は「この件のように、目が届いていないところで問題が発生することはあり得ます。サプライチェーン・マネジメントの担当者は常に、今世界で何が問題になっているのかをウオッチしておくことも大切です」と指摘する。
ステークホルダーへの「発信力」も問われる
さらに、企業はサプライチェーンに関する情報を、消費者や投資家に向けて開示することも重要だ。
「この点で優れているのが英ユニリーバで、統合レポートで全サプライヤーの情報を明記しています。工場の情報まで網羅しているのは素晴らしい」と笹谷。
他にも、植物性油脂や業務用チョコレートなどを扱う油脂大手の不二製油グループは、国外の生産地を多く抱えることから労働問題に対し注力してきた。また、グループ全体のサプライチェーンの状況を「リアルタイム」で可視化するなど、その発信力への評価は高い。