カプセルホテルで確信した「あるニーズ」
──香港では経営者として成功されていると伺いました。
はい、私はハーバード大学院で建築を学んでいたのですが、空間体験をデザインすることで人の心を豊かにしたり、社会問題を解決したりすることができるのではないかと考えるようになりました。その思いからソフトエンジニアの仕事を経て、香港初のカプセルホテル「SLEEEP」を創業しました。
カプセルはIoTシステムが完備され、目覚めが良いライティングや自分好みの音響を設定することでリラックスすることができます。自分をいたわり、大事にして欲しいと考えているので居心地には最大限こだわっています。ホテルは香港に3店舗、バンコクに1店舗を展開しており、それぞれトリップアドバイザーなどのサイトで高評価を得ています。成功の理由として現代人の「リラックスしたい」というニーズにコンセプトが合っていたと感じます。
──なぜ日本で事業をやろうと?
2020年に香港から家族で日本に移住しました。実は幼い頃に日本に行ったことがあり、人の優しさや独自の文化に魅了されてから日本はとても大好きな国です。漫画やアニメ、建築物まで、日本には多様な学ぶべき文化が息づいています。藤子・F・不二雄や手塚治虫のような漫画家、丹下健三や安藤忠雄といった建築家、古くは歌川広重や千利休という文化の担い手たちは深く尊敬でき、自身のデザインやコンセプト作りにも影響を与えています。
カプセルホテルのビジネスモデルを日本でもやろうと考えたのですが、新規参入が難しいことと旅行客が減っていることから今は難しいと感じました。コロナによって、現在のニーズはテレワークできる空間や自然に触れてリラックスするということに変化しました。そこで移動式のカプセルホテルのようなものはどうだろう?と思いつき、禅を起点にし日本の伝統文化と最新テクノロジーを取り入れたキャンピングカー「浮雲(ふううん)」を開発しました。
──禅とはどのように出会ったのでしょうか。
香港で経営するホテルのスタッフと京都に研修旅行に行った時に出会いました。座禅体験会をしたのですが、その時の講師が京都建仁寺塔頭両足院の伊藤東凌さんです。禅の考え方を現代の人にもわかりやすく教えてくださいました。彼はその後香港にも来てくれて、家族ぐるみで仲良くなりました。その後、私はひとりで6週間の禅合宿をしました。そこでさらに深く禅の考え方と向き合い世界のイノベーションと禅を合わせることを思いつきました。浮雲という名前も伊藤さんにつけてもらいました。
「FUUUN」の3つの「U」には禅における不二、不執着、不或という3つの「不」の意味が込められています。不二は一つの定義に収まらない、躍動する可能性。不執着は所有というこだわりから離れる、喜びを分け合う。不或はあらゆる枠を超えてどこへでも、空は繋がっているということです。こうした考え方は大量消費・成長だけを考えてきた社会と反対で、持続可能な社会を作っていくためにはぴったりだと感じました。