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「おててポン」は、普通の家庭で起きる日常をヒントに生まれた

シヤチハタ「おててポン」が、昨年1年間で43万個の販売を記録している。朱肉のいらないハンコのスタンプ技術を応用して開発されたその商品は、子供向けの手洗い練習スタンプとして人気を集め、コロナ禍でさらに販売数を伸ばした。

おててポンは、子供の手のひらに「ばい菌マーク」のスタンプを押し、そのマークが消えるまで手を洗うよう促すアイデア商品だ。コロナ禍での感染防止対策の基本である手洗いを、楽しみながら、習慣として子供に身に付くと評判になった。が、それ以上に、「手を洗いなさい」と子供を急かすストレスから解放してくれると、親から絶大な支持を得た。商品を企画したシヤチハタ・デジタルマーケティング部の松田孝明に、企画・開発の裏側にあるストーリーを聞いた。

シヤチハタ技術を子育て商品に応用


企画開発に至ったきっかけは、2012年の「スタンプの使用用途提案及び印面デザインの考察」をテーマにしたシヤチハタと名古屋芸術大学の産学連携活動だった。同大学デザイン学部の学生が提案した、現在の商品につながるコンセプトに端を発する。そのアイデアを活かし、今までにない商品を作る計画がスタートした。

商品化の担当に抜擢された松田は、当時2人の幼児の子育て中だった。

松田さんの写真
シヤチハタ デジタルマーケティング部 松田孝明

「家で妻が子供たちに早く手を洗いなさいと言って奮闘していた姿をよく目にしていたので、子供が自分から手洗いをするようなストーリー性のある商品であれば、支持されるかもしれない」。松田は、商品の用途・目的を、家庭での子育てに絞り込んだ。

家庭用であれば価格は買い求めやすい500円に抑えたい。「シヤチハタの価格は1000円以上のものが多いが、その壁をどう打ち破るか」。コストを半減しつつ、商品価値を高めるという難問に、松田は直面する。低コスト化を実現するのに、部品の一部を他の商品と兼用にし、インク補充の機能も廃止、スタンプの回数を1千回までに抑えるといった細かな工夫を重ねた。

コスト面の解決策でインク補充式を廃止し使い切り型にしたことで衛生面の問題解決に役立つメリットを手にすることができたが、子供の肌に直接スタンプするので、使用する材料の開発には、予想以上に苦戦を強いられた。

「肌に安全なものを使う必要があるので、材料を食用色素ベースにして、スタンプしたときにきれいに印影が出る新インクを開発することになったのです。理想に近い食用色素から選んで、配合の組み合わせを決める。これには、技術開発チームがかなり試行錯誤しました」と松田。また、子供に飽きられないようにスタンプのイラストにも工夫を凝らし、ブルーとピンクの“ばい菌”の2種展開に決めた。

構想コンセプトの検証から商品像の見直しなどの検討を経て、2016年におててポンが完成する。

文=中沢弘子

マーケティング

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