1. とにかくわからなかったら聞き返す。「定形」「ノリ」を押さえる
「私はもともと学生の頃から英語は得意で、大学でも米文学を専攻しましたが、『話す、聞く』英語は、仕事をしながら実践的に学んだとしか言いようがないですね。
24歳で最初の商談に臨んだ時は、日本の版元と海外のエージェントとの通訳みたいなことをやらされ、ボロボロだったことを覚えています。でもその後、とにかくわからなかったら聞き返して繰り返してもらう、あるいは別の言い方に言い換えてもらう、をねばり強く実行しました。何度かやっていると先方も、こちらが非ネイティブであることを思い出して意外と快く繰り返してくれる。表現のしかたや業界特有の英語の言い回しを教えてもらったこともあります。
商談では、定形の言い方、フォーマットがありますよね。まず会ったときにはこう挨拶して、次にアジェンダを確認して、という会話の流れ、というかノリのような「お約束」が。そこはだんだん覚えたし、繰り返しているうちにすこしアレンジしたりしてうまくなりました」
2. 「日本人の先輩がどう話すか」にも大きなヒントが
「なんといってもネイティブが話す英語より、先輩の日本人が話す英語からが学びやすい。発音も聞きやすいし、発想も日本人的だからかもしれません。先輩と一緒に商談の場に臨む時は、彼、彼女がどう対応しているかよく聞いて、メモを取ったりするのもいいですね。
商談の際、相手に聞かれた質問に『ぐっ』と詰まることは、今でもあります。そんな時はやっぱり「持ち帰って後からご返事します」というしかありませんね。具体的には、“Let’s revisit the issue next time.”とか“Let me monitor the progress.”、“Let me get back to you.”とかはよく使います」
3. 仲良くなるには「自分が何者なのか」を伝える。「自分の物語」は用意しておく
「最初にエージェントの仕事を始めた時に大先輩から言われたことで、今でも耳に張り付いていることがあります。
それは、大学を出ていれば、英語の基本語彙や基礎的文法は頭に入っている。その上に経験を積めば、一通りのコミュニケーションはできるようになる。でも『仲良くなる』には、『自分が』何を好きか、『自分が』何者なのかをちゃんと話せて、興味を持ってもらわなければならない、ということでした。
私からも、自分がおもしろいと思うこと、感じたことを伝えられる、あるいは『自分の物語』を話せるように、日頃からネタを仕込んでおくことをお薦めします。なんなら数分で話せる英語のひとり語りを2、3パターン、ワードに入力して暗記しておいてもいいかもしれません。
出版業界に関しては、なんと言っても人口的に女性が優勢、とくに食べることが好きな人が本当に多い。だから、ブックフェアーで訪れた土地でおいしいレストランの話、自分でする料理の話など、とにかく『食』は世界共通で盛り上がれるテーマです。
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私は実は前の妻との子どもがゼロ歳だった頃に離婚が決まり、それから子どもとは一度も会っていないんです。その話をある時フランス人のエージェントにしたら、さすが離婚の多いお国柄だけあってかひどく共感されて、子どもにはこれから手紙を毎年送るといいよ、とアドバイスしてくれたりして、急速に距離が縮まるきっかけになった。新卒の頃に大先輩にも仕込まれた、『自分のエピソード』でビジネスパートナーと仲良くなった例ですね。
仕事で英語を使う必要のなるビジネスパーソンには、ビジネス英語一辺倒にならず、とにかく映画を見たり音楽を聞いて口真似したり、ひっかかったセリフや歌詞はメモしておくといいと思います。そうやって蓄積した口語的なフレーズは、ビジネスランチやディナーの席で使えることもあります」