NFTは、アーティストにキャッシュをもたらすだけではなく、それを保有するファンとのダイレクトで永続的なつながりを提供する。アーティストはNFTを使って新曲や、新しいアートワーク、コンサートチケット、グッズなどを販売することが可能で、かつてのナップスターのような手軽さとユビキタス性を実現しつつ、iTunesのようなDRM(デジタル著作権管理)機能を組み込むことも可能だ。
キングス・オブ・レオンは、ニューヨークに拠点を置くブロックチェーンのスタートアップYellowHeartと組んで、「NFT Yourself」を販売した。しかし、ミュージシャンたちを支援するNFTのプラットフォームは続々と生まれている。
シンガーのショーン・メンデスの代理人を務めるアンドリュー・ジェルトレル(Andrew Gertler)は5月に、ジェイZとアンドリーセン・ホロウィッツとともに、音楽用の新しいNFTプラットフォームを構築するBitski(ビツキ)に1900万ドルを投資した。マイアミを拠点とするOneOfも5月に、ホイットニー・ヒューストン、クインシー・ジョーンズ、ジョン・レジェンドなどのレアな音楽を販売するエネルギー効率の高いNFTマーケットプレイスを構築するために、6300万ドルを調達した。
この分野には、著名な投資家が続々と参入しており、6月にマーク・キューバンとアシュトン・カッチャーは、音楽マーケットプレイス「NFT Genius」の400万ドルのシード資金調達に参加した。
レコード会社も参入に意欲
レコード会社は、NFTの台頭に危機感を抱くと同時に、音楽業界を危機から救ったストリーミングのようなポテンシャルを感じている。
「NFT Yourself」がリリースされた数週間後に、キングス・オブ・レオンの所属レーベルであるSony/RCAの幹部は、NFTに関するタスクフォースを立ち上げたが、ソニー・ミュージックやワーナー・ミュージック、ユニバーサル・ミュージックらも同様の取り組みを進めている。
しかし、NFTを音楽配信に用いるにあたっては課題も多い。ファイルの取引にはトランザクションのコストがかかり、その際に使用するイーサリアムの価格変動が激しいことも、一般のユーザーの参入を難しくしている。しかし、そのような課題も時間が経つにつれて解決される見通しだ。
キングス・オブ・レオンのメンバーの中で最も暗号通貨に詳しい、ボーカルのカレブ・フォロウィルは、「今後10年以内に、音楽アルバムの70%がNFTでリリースされるようになるかもしれない」と語る。ロックの殿堂入りを果たした際に、報道陣の前に立った彼は、肩をすくめてこう話していた。「僕らがジミ・ヘンドリックスやビートルズのすぐ近くに来れたということは、何か正しいことをしているからに違いない」