英国でワクチン接種を完了したのは、人口の半分をわずかに上回るだけの54%、1回目の接種を受けた人は約70%だ(7月21日時点)。これらの数値が行動制限措置を解除するのに十分だと判断したことは、悲劇的な誤りだといえる。
同国はワクチン接種率が約58%のイスラエルに比べ、はるかに脆弱な状態にある。現時点では最も有効性が高いとみられる「mRNAワクチン」(米ファイザー製)を使用しているイスラエルとは異なり、英国で接種されているのは、自国のオックスフォード大学とアストラゼネカ社が共同開発したワクチンだ。
感染力が強まった変異株の「デルタ株」に対するアストラゼネカ製ワクチンの有効性は、ファイザー製や同じmRNAワクチンのモデルナ製よりも低く、発症を予防する効果は60%程度とされている。
行動規制がほぼすべて解除されたイングランドの「フリーダムデー(自由の日)」は、英国内の各地でこれから感染する人、そして後遺症に苦しむ、あるいは命を落とすことになる人たちにとっての悲劇だ。
だが、これは同時に、世界にとっての悲劇でもある──イングランドでは、ワクチンが効かない新たな変異株が出現するための理想的な環境が整えられたことになるからだ。
感染者の増加が変異株を生む
ワクチンは感染を確実に防ぐバリアというよりも、警報装置のような役割を果たすものだ。それを忘れてはならない。ワクチンは私たちの体に、新型コロナウイルスを速やかに認識し、免疫応答を働かせ、ウイルスを排除するための方法を教える。
だが、新型コロナウイルスはすでに、この警報装置のスイッチの一部を切る方法を学んでいる。つまり、このウイルスには、私たちの体内でより多くの複製を作り出すための時間がより長く与えられるようになっている。